どうして、気づくのかね? 気づかなかったら、こんな想いに気づかされることもなかったのに。 徒花 「大串くん、科学準備室にこの後来てよ」 今日最後の授業が終わり、騒ぎ出す生徒たちをよそにやる気投げに言った。 土方は思いっきり眉間に皺を寄せ、抗議しようとする。 けれどその前に、 隣の近藤に肩を叩かれニッコリ笑って何か言われ、諦めたように席を立った。 それを尻目に、先に歩き出す。 どうせ行く所は同じなんだから一緒に行きたいけれど、 土方は絶対に隣を歩いてなんかくれないから、思い知らされる前に先を行く。 「…何ですか?」 こっちを見ようとしないのは、この前キスしたからだろうか。 それなのに、逃げることなく今ここにいるのは何故なのか。 考えるまでもなく、それは近藤のせい。 どうせアイツが、早く行ってこい、とかって言ったんだろ? 待ってるから、とか続けて。 あぁ、本当にムカつく。 「いい加減、諦めたら?」 唐突な言葉に、訝しげに眉間に皺を寄せられる。 「好きなんだろ?」 近藤のこと、と言えば、さっと顔が赤くなる。 そんな表情なんて、初めて見ましたよ俺は。 絶対に、俺を想ってそんな表情してくれないよな。 「諦めたら?不毛だよ?」 土方は、更に顔を赤らめた。 それは羞恥なのか怒りなのか。 「不毛だよ?」 止めを刺すように重ねて言えば、逃げ出そうと踵を返される。 その腕を掴む。 逃げ出されないように強く。 土方は手を振りほどこうと暴れるでもなく、掴まれた手を握り締めて耐えている。 不毛なのは、土方ではなく自分だった。 土方の視線がいつも近藤を追っていることに気づいた。 そして、気づく。 土方の視線が誰を見ていたか気づくということが、 自分が土方を見ていなければ気づかなかったということに。 気が付いたら、土方から目が離せなくなっていた。 10歳近くも離れた自分の生徒に、 しかも、男で他の男を想っているような男へ抱いた感情。 それはもう、不毛過ぎるとしか言いようのない感情。 それでも、どうしようもない感情。 「…っ何なんだよ、お前」 呟かれる声が、酷く掠れていた。 その声に、どれだけ自分が困らせているのかを思い知らされる。 好きだと伝えたところで、何かが変るモノでもない。 だって、土方が好きなのは近藤だから。 本当に、どうしようもない。 好きなのに、困らせることしかできない。 答えることが出来ず、掴んでいた手を離した。 それなのに、土方は動かない。 じっと、俯いたまま。 それでも答える言葉を持たない俺はどうしようもなくて、逃げるように背を向け椅子に座った。 暫くして、パタンと音を立ててドアが閉まる音が聴こえた。 好きなんだよ、年甲斐もなく。 今更、答えれなかった答えを口にした。 気づいた時点で、終わりようのない想いだった。
05.09.04 ← Back