06.10.21

腕に走ったのは衝撃と熱さで、痛みは何も感じられなかった。
ただ自分の起こした行動の馬鹿らしさに、笑った。



「…ヒバリ」

目を覚ましたら、男がいた。
眉間に皺を寄せ途方にくれた顔で、僕を見下ろす。

「…何?」

掠れた声は、自分のものではないみたいに聞こえた。


「ヒバリ」

「何も、言わないでよね。
 言ったら、かみ殺すよ?」

告げれば、痛々しげに眉を寄せられる。
どうやって、とその顔が言っていた。


「片手一本でも、君程度ならできるよ」

言葉を重ねれば重ねるほどに、男の表情に苦渋が走る。
それが、酷く不快だった。

「出てって」 




06.10.08 声が聴こえた。 聴こえるはずがない声。 浮上するはずのない意識。 これは、何――? 視界に、男が映る。 霞がかった意識の中、それが誰なのか理解する。 男は、あの男だった。 多少は歳を取っているようだが、男だった。 有り得ないと思うより先に、悟る現状。 湧き上がるのは、怒りと屈辱。 男を罵倒したかった。 どうして、と問いただしたかった。 けれどそれは声にはならず、呻き声が漏れただけ。 それをどう取ったのか、 男は極上の笑みで、お帰り、と言った。 有り得ない状況なのに、 その狂気が垣間見える笑みが、現実だと理解させる。 変らず、沸き起こる怒り。 けれどそれ以上に、悔しかった。 男の取った行動があまりにも悔しくて、僕は愚かしくも泣いた。 初めて泣いたのが、 こんな理由で、こんな状況で、 すべてが許しがたく、怒りも涙も尽きることはなかった。 「最近さ、感謝してんだよな。  こっちの世界に入ったこと」 男が血に濡れた刀を、笑って振り払う。 「血に、困ることないもんな」 振り返り笑う男は、あの日から狂気が覗く。 不完全な身体は、放っておけば腐敗を始める。 それを止めるために、血を欲す。 他人の血が、 僕の中に在る不快感は、 どれだけ時間が経とうと馴染まない。 それなのに、僕はそれを受け入れている。 自由に動けなくなった身体が、それをさせる。 こんなの、生きている、とは言わない。 これを、生きている、と言うのならば、 僕があの時選んだ選択を否定することになる。 それなのに、この男は何をした? 最後の仕事の前、 点検のためにと回収されたバレッタは、発信機付きで返ってきた。 それを知っていて、 誰の差し金かも知っていて、僕は何も言わなかった。 その後、感じる視線にも僕は何も言わなかった。 それは癪なことにも、信じていたからだ。 男が、僕の行動の意味を理解していると。 事実、男は僕に接触してこようとはしなかった。 だから、許した。 だから、気づかないふりをした。 この僕が、だ。 生きている間は、男は僕の意思を通すと思ったから、 死体ならくれてやろうと思った。 そんな抜け殻でさえも、男が欲しいと思うならばと。 それなのに、何を男は間違った? 僕は、男を買いかぶり過ぎていた? ここまで最悪に僕を踏みにじる好意を、どうして犯した? やってもいいと思ったのは、僕の魂が抜けた身体だ。 死体という名の、亡骸。 それは僕とは切り離された状態だから。 *** 収拾つかなくって、放置してたらしい。 書いた覚えすらなかったしなー…。 でも勿体無いので、 ところどこに引っ張ってきて、今回にくっつけちゃいました。 09.09.19 「何が欲しい?」 赤ん坊が、にやりと笑った。 欲しいモノなんて、欲しいと思う以前に手の内にあった。 だから、強く欲しいと願ったモノなど有りはしない。 それなのに今、僕は―… 「アレが欲しい」 数メートル先、いつもの3人と群れて笑う男を指差した。 僕の存在に気づいているだろうに、気づかぬふりで笑う男。 僕は、アレが欲しい。 *** たまには、ヒバリの気持ちが山本を目に見えて勝ってるのもいいかと。 山本は足掻くヒバリを見て、 バッカだなー、と思いつつも、そこが可愛いと思ってればいい。 でも、冷笑で。
06/09.13 「酷い男ね」 女が楽しそうに笑う。 「ヒバリに対して?」 「解ってるくせに。  …あたしに対してよ」 「こんなに優しくしてるのに?」 「だから、でしょ」 「あなたの本命は、さっきの人でしょ」 「さぁ?  それにアンタも見ただろ?  アイツも他の男と一緒にいたじゃねぇか」 「…当てつけでしょ」 「だったらいいけどな」 「思ってもないくせに。  …本当に酷い男ね」 「思ってるって」 「嘘吐き。  当てつけだろうとなかろうと、気にしないくせに」 女は、鋭い。 そんなことを改めて知った。 「何笑ってるのよ。  さっきの訂正するわ。  あたしに対してだけじゃなく、本命にもあなたは酷いわ」   「じゃ、帰ればいい」 「…それができたら、ここに来てないわよ」 そう寂しく笑う女は哀れで。
06.08.21 あの応接室での初対面から1週間。 ヒバリを見るたびに、心臓が早鐘を打つ。 これって、もしや恋と言うヤツ? 「最近、ヒバリを見るとドキドキするんだけどよ、これって恋かな?」 昼休み、屋上で飯を食いながら言えば、 獄寺は持っていたパンを落とした。 「もったいねぇな。  3秒ルール適用ってことで食えよ、それ」 拾ってやっても、それをはたかれる。 「食うかよ。汚ぇっ。  って違うだろ。  お前、何っつった?」 何をそんなに怒ってるのか解らなくて隣のツナを見たら、 顔面蒼白でガクガク震えている。 「ヒバリに恋をしたかもって言ったんだけど」 パンを受け取らない獄寺の代わりに、気持ちほどに埃を払って口に入れた。 「っお前、信じらんねぇ。  絶対、おかしい」 まだ喚く獄寺と、震えるツナ。 なんかどうでもよくなって、とりあえず食べることに集中した。 *** 珍しく中学生。 恋って言ってる時点で、凄い恥ずかしい…。
06.08.15 「何で?」 「何が?」 「山本は、ヒバリさんが好きなんじゃないの?」 「…どうして?」 「目が…追ってるから」 「…追ってねぇよ」 「追ってるよ。  ヒバリさんが気づかない程度だけど」 「それって、追ってるとは言わねぇんじゃね?」 「そうだけど、違わないとも思ってる。  どんな目で見てるか、山本は気づいてないの?」 「…何、言ってんだよ」 「…ねぇ、山本。  山本は優しいけど、それって時に人を傷つけるって知ったほうがいいよ。  …って、違うか。  山本は知ってても、知らないふりをするんだろうね」 「ツナ、何が言いたい?」 「…山本は何がしたいの?」 「さぁ、何だろうな?」 「…僕が、何を言っても無駄なんだね」 「…悪ィな」 「そんなこと思ってもないくせに」 「…ごめん」 「…謝らなくていいよ。  僕が口出すことじゃないから。  ただ、そんなんじゃ何も―…。  ごめん。何でもない」 *** 山ツナじゃないです。 他の女とイチャついてた山本を見たツナ程度ですよ。 でも、微妙になら山←ツナ感情有りでも可かもしれない。
06.07.25 「何をやってるの?」 「うん?跪いて、愛を乞う、とか?」 「君が、愛、を?」 「そう。  俺が、愛、を」 「どの口が、それを言うんだろうね?」 「んー。この口?」 「理解してもいないくせに?」 「それをヒバリが言うか?」 「何?」 「与えられたこともないくせに」 *** 跪いて、愛を乞う。 そんな山本が、書きとうございます。 でも、情けないというかマダオ的なんじゃなくって、 薄笑い浮かべて、な感じで。 それに対して、ヒバリさんは静かな怒りで対応して頂きたく。 冷笑もいいけど、触れれば切れそうな鋭さを持った無表情を希望。 与えられたことがないから、愛を知らないヒバリと、 溢れるほどに与えられてきても、愛を理解しない山本。
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