「はよ」 玄関から出てきたヒバリに笑いかける。 ヒバリは何も言わず鍵を閉め、門の柵へと手にかける。 その手首の存在に、息を呑む。 けれど、何も変化を見せてはいけない。 見せたら終り。 一瞬後には、その腕の存在を押し返されることが目に見えている。 だから何事もないように笑いかけて、歩き出すだけ。 ヒバリも俺が気づいてることに気づいただろうに、いつもと何ひとつ変わらない態度。 変化を生み出してはいけないのだ。 でも、いつか。 本当にいつかでいいから、一緒にあの時計を捨てような。 何をこんな下らないモノに固執してたんだ、って笑いながら、 キレイサッパリ跡形もなく、捨てような。 あと、少し。 本当に、あと少ししか一緒にいれる時間は残されていないんだ。 毎日、当たり前に会うことは難しくなる。 高校へ行くヒバリ。 変わらず、中学に行く俺。 朝だけでも途中まで一緒に行くって勝手に決めてるけど、 今までと違って帰りも一緒に帰るなんて難しいって解ってる。 俺が待てば叶うと言うのならどれだけでも待つが、ヒバリはきっと待ってくれないんだろうな。 なぁ、俺はそれでもお前と一緒にいたいんだ。 僅かな時間でも毎日会っていたいんだ。 高校を卒業しても、ずっと、ずっと――… 俺は、ヒバリの傍にいたいんだ。
08.03.04 ← Back