「俺、死ぬんだ」 ベッドで絡み合った後、ディーノが言った。 有 心 論 「へぇ、いつ?」 僕は眠さに負け、眼を閉じたままに訊いた。 「えっと、3か月以内?」 多分、と曖昧に答えられる。 「そう」 僕は、変わらず気だるげに答えた。 「へぇ、ってお前、信じてねぇだろ?」 起きろよ、って揺すられたから、 その腕を払いのけ、嫌々ながらに眼を開け逸らすことなく言った。 「信じてるよ」 だって、 あなたは僕に嘘を吐かない。 いつだって、本当のことしか言わない。 言えないことは、言えないと言うか黙るのみ。 嘘を吐く人は嫌いだ、と僕が言ったから。 それ以来、ディーノは僕に嘘を吐いたことがない。 じっと眼を見つめると、動揺に揺れた眼があった。 さっきまでの呑気な雰囲気は消えている。 「病気?」 訊きながら、それしかないだろうと思う。 大きな抗争があるとも聞かないし、 もしあったとしても、この人はそんなことで死ぬはずがない。 まして、死ぬと断言したのだ。 それならば、残るのは病気しかないだろう。 それは正しかったようで、 ディーノは、あぁ、と頷いた。 「そう」 僕は眼を閉じた。 きっと治らない病気なのだろう。 治る可能性があるのなら、何処までだって足掻く人だから。 「死ぬの?」 考えるのを放棄しながらも訊いた。 「あぁ」 ごめん、と小さく呟かれた言葉は聞かなかったふりをした。 早く、早く、意識が落ちればいい。 何も考えず、朝を迎えれば、 きっと普段通りでいられるから。 「寂しい?」 慈しむように僕の髪を撫ぜ、ディーノが訊く。 何だか泣けてきそうになるのを気付かないふりで、眠ることへと集中する。 必要なら、いつだって眠りにつける身体だ。 今それを発揮しないで、いつするというのか。 「…俺は、寂しい」 優しく撫ぜてくる手に集中すれば、 意識は次第に遠のいて、静かな眠りへと落ちていく。 完全に眠りに落ちる寸前に、ディーノの声が聞こえた気がした。 絶対に、ひとりにさせないから。 だから、 俺が死んでも、恭弥は寂しくねぇよ。 柔らかで、それでいて泣きそうな声だった。
09.12.15 ← Back