触れた手が、温かかった。 当たり前のことなのに、生きている、と思った。 Doll. 応接室の質のいいソファに横になって、ヒバリが寝ている。 気配には敏感だと言うくせに、最近では俺が傍まで寄っても目を覚まさない。 色白の肌が、光の加減で更に白く見えて、 その様はまるで、死人か人形のようで、 そうだと言われても納得できそうで、怖くなって手を伸ばした。 それでも、触れられないと思った。 叩き落されるか、トンファーで殴られると思った。 それなのにヒバリは動かず、手に触れた。 温かかった。 生きている、とやっと認め落ち着いた。 それから、開かれる目。 いつもの強い目でもなく、寝起きのぼんやりとした目でもなく、 ただじっと俺を見る目があった。 「何をしてるの?」 「確かめたくて」 何を、とも聞かず、 まして殴ることもせず、触れた手を振りほどくこともせず、 ヒバリはもう一度ゆっくりと目を閉じた。 「…もう来ないで」 静かに告げられた言葉は、 ゆっくりと、でも確実に心臓に突き刺さり、 笑って誤魔化すことも、何で、と問うこともできず、 ただ沈黙するしかできなかった。 俺以外の人間に見せるヒバリはここにはおらず、 俺にだけ見せていたヒバリもここにはおらず、 誰とも関わりなく生きている静かで哀しいヒバリがいるだけ。 それが本当のヒバリなのか、と言われれば、 そうであるし、そうでないとも言えるだろう。 それでも、それを俺に見せたと言う不覚さをヒバリは許せず、 俺にだけ見せていたヒバリさえも、もう見ることはないのだろう。 触れなければ良かった。 死んでいると思おうと、人形だと思おうと、触れなければ良かった。
07.02.22 ← Back