Canon.







「君の言葉は信じない」

言い返す言葉は、何も浮かばなかった。
そんな俺を見て、ヒバリは薄く笑った。


「だから、僕は君が嫌いなんだ」

そんな言葉にも、やはり何も浮かばなかった。
重い沈黙が続いた後、ヒバリの浮かべる笑みが消えた。

それから、同じ言葉を繰り返す。

「だから、僕は君が嫌いなんだ」

繰り返された言葉は、浮かべた表情によって意味合いを変えた。
泣きそうなくせに、怒りが見える顔で言うなよ。



それでも俺は、
変らず浮かぶ言葉など何もなくて、ただ抱きしめた。

いつもなら飛んでくる拳もトンファーも、今は飛んでこなかった。
腕の中に、静かにヒバリが納まっているだけ。

縋りつくこともせず、ただ静かに抱きしめられていた。



言葉は何ひとつ信用されなくて、
抱きしめるという温もりを与える行為さえも信用してくれなくて、
何をどうすればいいのか解らなくて。


それでも何か伝わってくれと、それだけを思ってずっと抱きしめた。






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