「お前、何をやってる?」

少年らしからぬ眼光で、小僧が問う。

「内緒」

とびっきりの笑顔で答えれば、
珍しく隠そうともせずに、小僧は苛立った。





The day when Hibari cried.





小僧に問われるまでもなく、
何をやってるんだか、と自分でも思う。

でも、どうしようもない衝動だった。


金があった。
脅せるだけの力もあった。
禁忌とは言え、研究している人間もしたがる人間もいた。
そんなヤツらと繋がるコネもあった。

なかったのは――失ったのは、ヒバリだけ。



だったら、やるしかないだろ。
自分の持てる限りのモノすべてを使ってでも。

だって、可能性があったのだから。


こんなこと嫌悪するべきことなのに、
ヒバリが生き返るなら、何とも思わない。

それどころか、感謝すらしたいね。
自分の持つすべてのモノに。





「なぁ、あとどのくらいかかる?」

「もう目覚めますよ」

白衣を着た女が、薄っすらと笑んで答える。

それなりに美しい部類に入るであろう女。
けれど、自分の興味の前では倫理観などがない女。

それでも、俺にとっては役に立つ女。

「早く目覚めるといいな」

女は、もうすぐですよ、と恍惚とした顔で、
青白く発光する液体の中のヒバリを見上げた。








「ヒバリ」

うっすらと、目が開かれる。
黒々とした目が、ぼんやりと俺を見つけた。

名を呼んでもまだよく解らないのか、焦点の合わない目で見上げるだけ。

頬に触れれば、冷たさが伝わる。
その手を下げ首元に触れれば、脈打つ感触は得れず。

それでも、後悔は生まれない。


「ヒバリ」

もう一度名を呼べば、ゆっくりと瞬きをして俺を捕らえた。

目に光が宿る。
それは俺を認め、憎悪に変った。

「……っ」

何かを言われたけれど、掠れて聴こえない。
ヒバリが望まないことをやったんだから、聞き返してやらない。






「おかえり」

にっこりとこれ以上ないくらい笑ってやれば、
憎悪を込めて睨み上げる目から、涙が零れ落ちた。

ヒバリの涙など一度たりとも見たことがなく、その時初めて後悔した。


でもそれは、
ヒバリが泣いたことに対してで、
生き返らせたことでは決してなかった。

ヒバリにとって、
同意義とも言えるそれは、俺にとっては違っていた。






06.07.16 Back