「恭弥ー」 「…」 三度目の呼びかけも、軽くスルー。 恭弥は黙々と、風紀の日誌を付けている。 Boogie Back. 「恭弥ってば」 それでも、呼びかける自分は甲斐甲斐しい。 が、ウザいと思われているだろうことこの上ない。 いや、その方がいいのか。 だって、このままだと完全に居ないモノとして扱われてしまう。 ――そんなの哀しすぎる。 「リボーンがさぁ」 この状況からの脱却を願って発した言葉は功を奏したようで、 恭弥は顔を上げないまでも、何、とだけ返してきた。 何、っていうか、 お前どれだけアイツが好きなんだよって哀しくなる。 まぁ、知ってたけどな。 「いや、リボーンのこと好きか」 うん。 だから、 知ってるんだけど、それでも確認をしておきたい。 「好きだよ」 答える口元は緩やかに笑みをかたどっている。 あぁ、チクショウ。 俺には滅多に見せてくれないくせに。 「アイツのどこがいいんだよ」 これもまた知ってるくせに訊く。 「強いトコロ」 あぁ、本当に知ってたけどな。 恭弥の好きの判断基準は、強いかどうか。 ただ、それだけ。 思春期真っ盛りの中学生という年齢を考えたら、 どんな判断基準だと突っ込みたくなる。 が、それが恭弥なのだ。 そして、この先ずっとそれはぶれることはないのだろう。 だから、 女の子よりも男に興味が行く可能性が高い。 たって、強ければいいのだ。 俺は、それが怖い。 これから先の可能性溢れる未来を持つ恭弥と、 成人して数年とは言え、 大人になった自分との差は、うまく言えないけどあるのだ。 これが大人になってから出会ったのならば話は違うけれど、 恭弥が成長真っただ中で出会ってしまったのだから、不安は尽きない。 だから、 早いトコ俺を見てくれるようになって、 それからずっと興味を引き続けておきたいと思う。 ずっと好きでいてもらいたい、と言いたいのに、 興味を引き続けたい、と思うのが、 間違っていると思わないでもないけれど、 多分、恭弥においては間違っていない。 一度興味を持ったらずっと追うような相手だ。 だから切欠を掴んで、その後ずっと俺を見てもらえるようにすればいい。 そして、 その興味というのが、強さ、でしかない。 だから。 「じゃあ、俺でもいいじゃねぇか」 何でダメなんだよ、とか言いながら、返される言葉を知っている。 そして、案の定、想像通りの言葉を返される。 「赤ん坊よりは弱い」 お前、アレと比べるなよ。 アレは世界最強のヒットマンだっつーの。 無理だろ。 どう考えても、無理だろ。 故に、違う方法を考えた。 「よく考えてみろ、恭弥」 ビシッと指を突き立てれば、恭弥はやっと顔を上げ嫌そうな顔をする。 が、そんなこと気にしないで続ける。 「アイツは確かにお前の近くにいる。 が、いつもお前と戦ってくれるか? 違うだろ? アイツは碌にお前と戦ってくれねぇはずだ」 腕は確かでも、 基本面倒くさがりのアイツが、 意識失ってぶっ倒れるまで戦い続けるのが好きな恭弥に付き合うはずがない。 それは図星だったらしく、 恭弥は嫌そうに眉間に皺を寄せた。 「でも。 でも、だ。 俺は違う。 そりゃあ、月に1回来れたらいい方だけど、 その時に絶対、思う存分お前の相手してやるぞ? な、どっちがいいか考えてみろよ」 言いながら、コレ告白じゃねぇ、と思わないでもない。 でも、恭弥相手と思えば、立派な告白になるんだから仕方ない。 俺の必死の自分売り込みに、 ますます恭弥は眉間に皺を寄せ考える。 どちらが恭弥にとって得か、 より楽しませてくれるのか、 そんなことを必死に考えているのだろう。 だから、とっておきの笑顔で言った。 「心変わりの相手は、俺にしとけよ」 恭弥はジロジロと品定めするように俺を見、言った。 「最低、月1回だからね」 照れるでもなく、 本当に不承不承妥協して、って顔で。 でも、それが凄く嬉しい。 だって、 戦闘馬鹿で自分都合しか考えない恭弥が言ったのだ。 月イチでいいと。 もっと来いとは思っても、 それを口に出さずに妥協した結果でも、 それでも、リボーンより俺を選んでくれたことがうれしい。 だから、破顔して言った。 「好きだぜ、恭弥」 恭弥はそんな言葉はいらないから、 もう一度約束しろ、と言った。 いくらでも約束してやる。 お前にとっては、ただの月イチの戦闘でしかなくても、 俺にとっては、月イチのデートだからな。 いつかお前も同じ言葉を返してくれたらいい。 それが無理でも、 ただずっと、俺を追い続けてくれるなら、俺はきっと幸せだ。 報われねぇ、と思わないでもないけれど、 相手が恭弥なら仕方ない。 それでも、 他の誰かを見るくらいなら、 ただの興味でもいいから俺だけを見てくれればいい。 本当に、好きなんだ。 恭弥。
11.03.23〜11.04.06 ← Back