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ここは、闇市。 金さえ出せば、手に入らないモノは何もない。 薄暗い道沿いに、店が立ち並ぶ。 店と言っても、鉄筋に幌をかぶせた代物で、 店主も頭巾を深々とかぶっているような怪しさ。 それでも、取り扱っている品は他の何処を探してもないモノばかり。闇市
「お客さん、いいの揃ってるよ。 見て行ったらどうだい?」 しわがれた声の店主が、声をかけてくる。 「何、扱ってんだ?」 最奥に近いこの店の取り扱い品は、何だろう。 この闇市は、奥に行くほど取り扱い品の怪しさと値段が倍増する。 入り口付近は、宝石だとか珍しい毛皮とか一般でも金さえあれば手に入る品々。 真ん中は、絵画とか骨董品とか。 それも、どこかの美術館で盗まれたとされるモノばかり。 こうなればもう、一般では取引できない。 いつもは、その辺を冷やかして引き返していた。 別段金はあるのだが、 欲しいモノなどないのだから、奥へ行くのも面倒だったから。 それでも、今日は何故か奥へと足が向かった。 未知の領域。 取り扱われているモノは、何か。 「生き物だよ」 しわがれた声で、店主が笑う。 「天然記念物とか?」 それだけで、この最奥に近い場所に店を開けるか? インパクト弱くねぇ? 「あぁ、それもあるね。 あと絶滅種とされたモノもあるし、あんなのもあるよ?」 そう言って指差されたのは、他のとは違って大きめの檻。 ご丁寧に、上からボロ布をかぶせられていて中が見えない。 「開けていいのか?」 「勿論。 商品だからね」 促されるように、ゆっくりとボロ布をまくれば人がいた。 碌なモノを食わして貰ってねぇのか身体は痩せ細っているのに、 拘束された両手でこれまた拘束された両足を、 抱えて座り込んだまま見上げてくる目は、酷く鋭かった。 髪と同様に真っ黒な目。 でもそれは、人とは言えないのかもしれない。 身体のあちこちには傷と血が見られ、 その背中には、これまた傷と血だらけの白い翼があった。 あぁ、そうだな。 ちょっとコレは、最奥近くじゃねぇと拝めねぇよな。 「で、何? 天使?合成獣(キメラ)?」 「そりゃ、お客さんのご自由な判断でどうぞ」 楽しそうに最もなことを言いながら、店主が笑った。 この闇市で扱われているモノは、基本的に本物が原則だ。 宝石や毛皮は勿論、盗品の絵画や骨董品までも。 盗品だろうと、ここは関係ない。 本物でありさえすればいい。 でもそれは、証明できるモノに限る。 闇市で取り扱われる商品は、そうじゃないモノも少なくない。 例えば想像上のモノだとか、想像上の人物の持ち物だとか、 そんなモノは本物かどうかなんて誰にも解らない。 だから、それは店側と買う側の交渉次第で値段が変る。 欲しいと思うヤツが金を出し、手に入れる。 欲しくなければ、買わなければいい。 それが、闇市。 そして俺は、天使でも合成獣でも関係なく欲しいと思っている。 「おっさん、コイツ買うわ。 いくらだ?」 店主はしわがれた声で、値段を提示してきた。 「ん、カードでいいか?」 そう言うと、店主が驚いた。 「何?」 「いや、値切られるかと思いましてね」 「何で? それがアンタのいい値だろ? で、俺はそのくらいなら出せるし、何より俺は欲しいんだ」 だから、値切るわけねぇよ、と笑えば、店主も笑った。 「そうですか、ありがとうございます。 それなら、いい事…というほどでもございませんが、ひとつだけお教えしましょう」 そう言って教えてもらったのは、 人とは異なる再生能力のせいで消えてしまったけど、 店主に渡る前に、翼に『H』と焼き鏝が押されていたことから、 名前に『H』が付くのではないか、と言うこと。 その名前で呼ばれたところでいい思い出なんてないかもしれませんが、と店主は続けた。 『H』ね。 この場合、どっちが正しいんだろうな? 『H』から始める名前を付ければ店主の言うように、 いい思い出がないだろう名前を付けてしまう可能性もある。 かといって、全然違う名前を付けるのもなんだかなぁ。 ま、なるようになるか。 「じゃ、コイツ貰ってっていい?」 「はい、お買い上げありがとうございました」 そう言って引き渡されたのは、檻。 「…これ、引きずって帰れって?」 「なかなか暴れるんですよ。 だから再生能力が強くても、暴れていつも怪我だらけ」 それでもいいですが、出して帰りますか、と聞く店主に頷いた。 また驚く店主に、両手両足拘束されてんだし大丈夫だろ、と笑ってやった。 店主がビクビクと怯えながら鍵を開けると、 逃げられもしないのに、逃げようとするので肩に担いだ。 驚く店主は、怯えながらもまた、 ありがとうございました、と深々と礼をした。 担いだ天使だか合成獣は、酷く暴れたが気にしなかった。 「仲良くやろうぜ?」 背中を叩いて笑えば、膝蹴りをしようと勢いよく足を浮かせられた。 その足を掴んで、また笑う。 こんなに生きがいいとはな。 絶対、飽きねぇな。 「俺は、飼い主になりたいワケじゃねぇんだ」 本心で言ったら、背中に思いっきり肘鉄をくらった。 「ちょっ、お前」 振り返れば、人を咬み殺さんばかりの強い目で俺を睨み上げてきた。 その目を見ると、何も言えなくなった。 一体、コイツは今までどんな目にあってきたんだろう。 宥めるように、背中を撫でた。 それでも、睨み上げる目は変わらない。 「なぁ、仲良くやろうぜ?」 もう一度言えば、 じっと睨んだままの後、諦めたように大人しくなった。 でもきっと、諦めたワケじゃねぇんだよな。 とりあえず、どう足掻いても変わらないこの状況を諦めただけってことなんだろうな。 この先どうなるか解らねぇけど、俺は手放す気はねぇんだ。 って、この考えは、飼い主的発想になるのか? よく解らないけれど、俺だけじゃなくコイツも同じようにいつか思ってくれたらいい。 そんなことを、思った。
06.10.11~10.15 ← Back