見なければよかった。 気づかなければよかった。 Who is loved? (Side,S) マジックが席を外した時間潰しのためにTVをつければ、同時にビデオは映し出された。 まだ幼い俺と今とそれほど変わらぬマジックが映っている。 楽しそうに笑っている。 そんな微笑ましくも、恥ずかしいビデオ。 苦笑とともに見ていたのに、俺の表情は強張り始めた。 「パパ、僕のどこが好き?」 甘やかし与えられるすべての愛情を向けてくるマジックに、まだ幼かった俺が訊ねる。 「シンちゃんのすべて」 マジックは俺を抱きしめ答える。 「それ答えになってないよ」 怒って頬を膨らませば、マジックは苦笑した。 それから俺をじっと見つめる。 そんなマジックに、期待のこもった視線を向ける俺。 それに笑って返しながらも、懐かしむ目で俺を見るマジック。 「すべてじゃ答えにならないのかな。 んー…それなら顔。 シンちゃんのお顔が好きだよ。 パパのことを見てくれる黒い瞳が綺麗だし、艶のある黒い髪も大好きだよ」 「えー、僕パパと同じ色がよかった。 パパのおめめは空色で綺麗だし、パパの髪の毛も太陽の色で綺麗だもの!」 無邪気に俺は答える。 けれどマジックは、痛みを耐えた表情をしながら寂しそうに笑った。 「パパ?」 「…何でもないよ」 笑って抱きしめて誤魔化すマジック。 抱きしめられたことに喜びで、一瞬にしてすべてを忘れてしまった幼い俺。 そして、気づかないようにしていた現実を突きつけられてしまった俺。 なぁ、マジック。 アンタは本当に俺を見ていたのか? それとも、俺を通して他の誰かを見ていたのか? こんなビデオなど、見なければよかった。 マジックの気持ちなど、気づかなければよかった。 ――誰かの代わりでもマジックに愛されたいと思う、愚かな俺に気づかなければよかった。
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