毎日、飢えていた。

食べるモノなんて何処にもなくて、
歩いても歩いても焼けた大地と崩れ落ちた家と腐敗臭を撒き散らすモノばかり。

その上、冬が近づいてくるせいで寒さが身にしみる。

そんなどうしようもない中で、
チョコレートロマンスとふたりで肩を寄せ合って生きていた。







Supreme commander and war orphans.







地面に横になって蹲っていたら、
遠くから規則正しい音が近づいてくる。

まだ人がいたんだ、とぼんやり思う。

動ける人間は、この荒れた地からとっくに去っていた。
残っている者は、動けなくなった者や自分たちのように頼る大人を失くした子どもばかり。

それなのに、足音はしっかりとした大人のもの。

今の悲惨な現状を作り出した奴らかもって思ったけど、動く力なんて何処にもなくて、
向き合って横になるチョコレートロマンスと視線を交わしながら手を握った。

伝わってくる温もりだけがすべてで、他のことを何も考えられない。

この足音の主が、通り過ぎようと足を止めようとどうでもよかった。
もっと言えば、何処かに売られるんだとしてもどうでもよかった。

ただ繋いだこの手を離さないでいいのなら、本当にどうでもよかった。





足音は次第に近づき、ふいに止まった。
視線をやれば、黒く磨き上げられた軍靴が。

それを辿っていくと、
赤い服があり、黒いコートがあり、青い目と金の髪があった。


射抜くように見つめてくる目が、綺麗だと思った。
人を人とも思わない目ような冷たい目だと思いながらも、それでも綺麗だと思った。

その目が、ふいに歪んだ。
それから先ほどまでの目が嘘みたいに、柔らかな笑みを向けられる。


男が目線を合わすようにしゃがみこむ。
それを慌てて背後にいた者が止めようとするが、
男が振り向いた後、真っ青な顔をして慌てて謝辞した。

再び、男は柔らかな笑みと共に手を伸ばし言った。



「私のところに来るかい?」

伸ばされた手を見た後、チョコレートロマンスを見た。
視線が絡み、どちらともなく頷いた。

繋いだ手はそのままに、ふたり空いた手を男に伸ばす。
触れた男の手は、酷く冷たかった。



――それが、始まり。






05.02.11〜04.16 Back