幼少期シンタローとパパの小噺↓【05.01.30】 「シンちゃん、パパと一緒に寝よう」 珍しく早く帰ってきて、枕を持って笑いかけてくるパパ。 少し前まで嬉しかったそれが、今は嫌。 頷かないでいると、パパが困ったような顔をする。 「…シンちゃんは、パパと一緒に寝たくない?」 困った顔が、寂しそうなものに変わる。 だから、慌てて訊いた。 「…パパ、明日も?」 「あぁ、明日もだよ」 笑顔で答えられる。 決定的だ。 パパは、嘘は吐かない。 無理なことは謝りながらも、ちゃんと無理だと言ってくれる。 できない約束はしない。 期待させて裏切ることは、ないに等しい。 「…じゃあ、1週間後は?」 そう訊けば、パパが困った顔をした。 さっきしていた顔より、もっと困った顔。 「…ごめんね。無理かな」 解っていたことだけど、寂しい。 それを埋めるように、手を伸ばした。 パパが、抱き上げてくれる。 「…早く、帰ってきてね」 肩に顔を埋めながら、呟いた。 パパは驚いたように僕の顔を見たけれど、僕は見なかった。 見れなかった。 パパは、頭を撫ぜてくれた。 「…どうして解ったの?」 「…パパ、いつも忙しいのに、暫く出かけるときは絶対に、 1週間前から一緒に寝ようって言うって気づいたから」 「そうか。…ごめんね」 「お仕事だから、いい。 でも、早く帰ってきてね」 そう言って、ぎゅっと腕に力を込めた。 1週間、ずっと甘えるって決めた。
シンタロー14歳くらいで↓【05.01.17】 愛してる。 その言葉のもと、すべてがされるがまま。 与えられるモノは、見えるものから見えないものまで。 そして、危険は遠ざけられる。 小学生でも許されるような遊びでさえ、 マジックが傍にいない限り危険だからと許されない。 愛してる。 守るから。 でも、それって違うだろ? 「いい加減にしろよな。 どうして、アンタはそうやって俺に何もさせない? もうガキじゃねぇんだ。 危険かそうでないかなんて自分で判断できるし、 回避する方法だって身につけている」 いい加減、うんざりした…なんてもんじゃない。 どうしてこうも、がんじがらめに守ろうとするのか解らない。 解りあえないことが酷く辛く情けなくて、唇を噛み締めた。 そんな俺を見て、マジックが何度も何度も聞かせてきた答えを呟く。 「だって、心配なんだよ。 お前にもしものことがあったらと思うと…。 愛しているんだよ?守ろうとするのは当然じゃないか」 俺にしか見せない情けない顔。 そんな顔が見たいんじゃない。 そんな言葉が聞きたいんじゃない。 だって、違うだろ? 「それは、母親の愛情だ。 無償で盲目的な。 …アンタは、もう十分やってくれた。 十分愛情を貰ったって解ってる。 だから…もう子離れしろよ」 言ってて、哀しくなるのは何故だろう。 言われたマジックも、一瞬哀しそうな顔をした。 けれど、諦めたような笑みで告げられる。 「…子離れなんて、できないよ。 お前に対する愛情は、そんなものとうに超えてしまったよ」 諦めたように笑みを浮かべるくせに、目だけは酷く傷ついている。 そんな目で見つめられてもどうにもできなくて、逃げるようにその場を去った。 団員に見せる冷たい目よりも、あの目が怖かった。
シンタローの死。【05.01.13】 シンタローが死んだら、私はお前を作るよ。 でもそれが、 お前なのか彼なのか、解らない。 「本当に、いいのですか?」 問われた言葉に、笑った。 「…私はね、 本当に欲しいと思ったモノが手に入ったことが、一度もないんだ。 どうしてかな。 あの子も、私を置いていってしまった」 答えではない呟きを返す私を、高松は何も言わずに見ていた。 そんな彼を見ながら、言葉を続ける。 「私がしようとしていることは、何だろうね。 ジャンを欲し、彼に似た実の息子を愛し…。 解らないんだよ。 私は、誰を欲しているのか。 ジャンを代わりなのか、あの子の代わりなのか…。 それでも、また生きているのをみたいんだ」 だから、いいのだ、と目で告げた。 高松は無言で私を見つめ、何も言うことなくスイッチを入れた。 ガラスケースの中には、ジャンともシンタローともとれる肉体が。 ぴくりと動いた指先。 これから動き出すのは、果たして誰どちらのコピーなのか。 コピーでも擬似生命体でもいいと、思う私は最低だ。 ジャンを想った心もシンタローを愛した心も、自分で汚す行為をしている。
ジャン視点で南国後(マジジャンサビ前提)【05.01.12】 それは、奇妙な光景だった。 あの人が、幸せそうに笑って追いかけている相手は、 自分とよく似たシンタロー。 「何を見ている?」 かけられた声に振り返れば、サービスが。 「別に」 笑みを浮かべながら答えを濁し、その場から離れようとするが、 それより素早くサービスが傍に寄る。 そして、俺が見ていた窓の外を見る。 表情に何の変化を表すことなく、サービスが口を開く。 「…兄さんの笑顔なんて、お前は知らないだろう」 その言葉の真意が、解らない。 見上げたサービスの顔は、相変わらず表情がない。 答えることができず見上げたままの俺と、 サービスの目が合って、サービスは笑った。 「まぁ、幸せそうに笑っていても、 本当に幸せじゃないことなんて、お前は気づいているんだろうけど」
マジジャン前提マジック・シンタロー(たぶんマジシンだけど微妙。)【05.01.07】 夢を見た。 まだ総帥業に慣れなかった頃の、若かったあの頃の。 欲しいと気づいた時には、末の弟のモノだと知った。 それでも欲したけれど、一度も手に入ることはなかった。 手に入ったのは、心ではなく身体だけ。 空っぽの身体を抱いていた。 苦い思い出。 それでも、痛みを伴う大切な思い出。 思い出すのは、黒くパサつきながらも艶やかな髪。 そればかり、見ていた。 彼は振り向くことなく、いつもサービスを見ていた。 そして、そんな彼を私は後ろから見ていた。 そんな頃の夢を見ていた。 目が覚めても、何処か現実とは思えない。 夕焼けで、赤く染まる総帥室。 その赤い光を受け、誰かが窓辺に立っている。 誰だ、と問う気にもなれず、ぼんやりと見ていた。 赤い逆光の中、黒い髪を視界が捕らえる。 「…ジャン?」 考えるまでもなく、彼の名を呼んだ。 夢を見ていたから。 あの頃の夢を。 彼の夢を。 呼びかけの声に、窓辺に立つ誰かは答えない。 ただ、酷く驚き肩を揺らした。 「ジャン?」 もう一度問いながらも、彼であるはずがないと漸く気づいた。 彼は呼びつけもしない限り、来てはくれない。 では、誰だろう。 ぼんやりとした頭で考える。 けれど、答えは出てはくれない。 定まらぬ思考の中、答えは唐突に出された。 誰かが窓辺を離れ、その姿を現したから。 「…シ…ンタロー」 なんとも言えない笑みを浮かべていた。 怒りと哀しみが混ざったそんな表情。 現実に、一気に突き戻された。
見合い話。【05.01.03】 今、耳にしたことが信じられなかった。 書類を持つ手が、止まった。 「シンちゃん、聞いてる?」 呆然と見上げる俺を見て、マジックが苦笑した。 「…な…んて?」 心臓が、バクバクと音を立てる。 そんな俺の動揺を無視して、マジックが同じ言葉を言った。 「だからね、シンちゃんに見合い話を持ってきたんだよ」 キレイな娘さんでね、と続けながら、 豪奢な見合い写真と思われるモノと身元を記した書類を突き出される。 それらと、マジックを見比べた。 頭が、うまく働かない。 すべてを拒否するように、何も考えられない。 言葉を失う俺に、マジックが口を開く。 「候補者はいっぱいいたんだけどね、私が選んだんだよ。 お前に一番ふさわしいと思う人をね。 だから、きっとお前も気に入るよ」 笑ったままに告げられる言葉は、酷く胸に突き刺さった。 何も考えられなくなった頭では、 マジックの笑みが苦笑なのか、微笑んでいるのかさえも解らなかった。
04.11.28 ← Back