鎖。【04.12.03】


ジャラリと響いた音。
不自然な重みに伴い痛みを伝えてくる、右手首。

嫌な予感を通り過ぎ、諦めに似た確信で視線を投げれば、
想像通りに鈍く光る銀の手錠。

「…いつかはやると思ってたよ」

「だって、そうでもしなきゃ手に入らないんだもん」

「…だって、とか、だもん、とか言ってんじゃねぇ」

「お前は余裕だね。
 私は、酷く怖がっているんだけどね」

どこがだよ。
怖がってるヤツは、苦笑なんて浮かべねぇんだよ。

「どうでもいいから、これ外せ」

「私が外すと思う?」

「…思わない。
 どうせ、高松あたりに頼んで作らせた特注だろ?」

鎖に目を落とせば、変らず鈍く光っている。



『不思議の国の少年アリス』パロ。【04.12.06】 ぼんやりと座りこんでいたら、目の前に知らない若い男が立っていた。 じっと私を見つめている。 そんな彼を見返し、訊いた。 「…失礼だが、私の名前って知ってるかな?」 「マジック総帥ですよ。  …しっかりしてください。」 マジック…総帥? 聞いたことがあるような気がしないでもない。 考えようとするけれど、考えは纏まることなく霧散した。 再びぼんやりと霞む脳に浮かぶのは、ひとつの名前。 「シンタロー…お前は一体何処にいるんだ…」 呟いた言葉に、男が寂しく笑う。 「自分の名前は忘れても、捜している相手の名前は覚えているんですね」 そうだ。 その通りだ。 あまりに長い間捜していて、シンタロー以外のほとんどの記憶を失ってしまった。
馬鹿親子 in 京都。【04.12.07】  「シンちゃん見てみて、凄いよ!  金の家だよ!  成金趣味丸出しだねっ!」 金閣寺指差しつつ、もう片手でシンタローの服を引っ張るパパ。 「…あれは家じゃねぇ、舎利殿だ。  それに、趣味のことはお前がとやかく言うな。  自分の姿見て言え。  ピンクのスーツなんて着るやつの趣味のが疑われる」 思いっきりしかめ面でシンタロー。 それに、パパはきょとんとした顔でお応え。 「そうかな?  でも、お前の真っ赤な総帥服もどうかと思うよ?」 「……っお前も着ていただろーがっ!」 顔真っ赤にして、シンタローご立腹。 でも、パパはにっこり笑って。 「そっかー。  シンちゃんは、パパが着てたから着てくれてるんだね」 「はぁ?」 「だって、態々デザイン変えてまで着てくれてるじゃない。  いっそのこと、好きなようにしてよかったのに」 「……っ」 本当は単に、その考えが思いつかなかっただけなのだけど、 それが情けなくて反応が遅れるシンタロー。 さらにその数瞬の逡巡の間に、マジックがニコニコと嬉しそうに笑うのを見て、 もしかしたら、マジックの言うとおりかも、とさらに混乱するシンタロー。 それに追い討ちをかけるように、パパ一言。 「シンちゃん、大好きだよ」 邪気のない笑みに、シンタロー脱力。 「あー…もう解ったから」 その言葉に、パパさらにニコニコ。 ない尻尾をぶんぶん振っているかのよう(イメージ大型犬)。 そしてそんなふたりを秘書ズは、またですかーという目で見守って、 さらにそんな彼らと親子を、観光客がいろんな憶測を込めて見つめていた。
黒髪。【04.12.09】 お前の髪はキレイだね、そう言われ続けてきた。 そんな髪を引っ張る。 少し長めの髪は、自分でも納得するほどに艶やかな漆黒。 マジックの言うように、キレイ、だとは思わないが、別に嫌いでもない。 それ以前に、興味などなかった。 が、士官学校に上がり、いろんなヤツを知った。 或る日突然に髪の色が違っていた、なんてことは、珍しいことでもなかった。 服装の乱れに関しては厳しいが、髪の色については規則はない。 様々な人種が混じっている学校なのだから、言ったところで始まらないからだ。 規則ばかりの学校で、 唯一自己主張…と言えるのか知らないが…ができるものは、髪の色だけ。 だから同じ黒髪だった人間が、いきなり赤や金に変ったところで驚かない。 逆に赤や金の髪が、黒髪になったところで驚かない。 ただ、そんな色彩もあるのだ、と知るだけだ。 そして、改めて自分の髪を引っ張る。 光さえ通さぬ漆黒の髪。 そして、マジックの髪を思い出す。 光を受け止めより輝きを増す金の髪。 憧れない、と言ったら嘘になる。 ――だから、愚かしくも今こんなモノを手にしているのだ。 握り締めたままだった箱は、側面が凹んでいた。
In 冬休み。【04.12.10】 「パパー、冬休みの宿題で自由工作ってあったんだけど…」 むーって顔のシンちゃん。 パパ、一瞬引きつり強張った笑みで対応。 「…何がいいかな?  クリスタル細工?それとも、指輪なんてどう?  パパとお揃いで!」 シンちゃん、軽く(まだ幼いからこの程度)ひく。 「…パパ、僕まだ小学生だよ。  そんなの無理だよ。  ていうか、パパってば思いっきり買う気じゃない?」 「……」 「…(図星かよ)」 シンちゃん、呆れて溜息。 「パパ、自由工作って言ってるじゃない。  作らなきゃ意味無いんだよ。  解ってる?」 珍しくキツめなシンちゃんのお言葉に、パパ戸惑い焦る。 「シンちゃん、ゴメンっ。  でも、パパ何をすればいいのか解らないんだ」 そんなパパの言葉と情けない表情を見て、シンちゃん少し哀しくなる。 「もういいよ。  僕、ひとりでやるから!」 吐き捨てて、シンちゃん逃走。 ひとり残されるパパ。 追いかけもせず、涙流す。 だって、パパってば不器用なのですもの。 家事全般は得意だけど、工作系だけは無理なのですもの! で、シンちゃん。 吐き捨てて逃げたはいいけれど、庭の隅で蹲っております。 でもって、嗚咽殺して泣いてます。 「…っ僕は……ただ…、  パパと…一緒に何かを作りたかった…だけなのにっ」
福引き。【04.12.28】 振り返った顔が、引きそうなくらいに笑顔だった。 思わず、後ずさる。 けれどそれを止めるように、すかさず腕が伸ばされ肩を掴まれた。 「見て、シンちゃん。  金だよ。一等賞だよ。温泉旅行だよ」 一気に捲くし立てるマジックの後ろで、 カラーンコローンと間抜けな音を立てながら鐘が鳴り響き、 紅白の法被を着た男が、大当たりー、と叫んでいた。 …こんな奴に態々特賞などを与えるな。 金なんて腐るほど持ってるんだから。 二名様、湯煙旅情温泉旅行。 お部屋には露天風呂付き。 …二名。 二名と来たか。 「俺は行かないからな」 マジックが何かを言う前に、言った。 「何で?二名だよ!?  考えるまでもなく、パパとシンちゃんの二名じゃないか」 いい歳して、子供みたいにマジックが焦る。 「…馬鹿か?  年末だぞ?このクソ忙しい時に休んでなどいられるか」 今この瞬間でもさっさと仕事に戻りたいというのに、 マジックに散々泣きつかれてなんとか定時に切り上げてやったのに。 それだけでも、有難く思いやがれ。
Back