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手の中におさまる林檎は、
たいした重さもないはずなのに、鉛のように重く感じる。





Criminal fruits.





「何をされているんですか?」

滅多に許可を出さないプライベートフロアなのに、
カツンと音を立てて目の前でよく磨かれた革靴が止まった。

視線を上げれば、ティラミスが書類を持って立っていた。

「いや、何も」

ただ、打ちひしがれているだけだ。

「チョコレートでも貰いたかったんですか?」

日本人ではないくせに、
私の日本びいきのせいで日本の俗習まで知っているティラミスに笑いが漏れた。

「そうだね。
 貰いたかったけど、貰えなかったよ。
 でも、これを貰ったよ」

手の中の林檎を見せれば、僅かに眉間が寄った。





「…素敵なモノを貰いましたね」

「あぁ」

酷く、素敵なモノを貰ったよ。

「知恵、不死、豊饒、美、愛。
 林檎は、それらのシンボルでしょう」

「…本気で言ってる?」

知らず低くなった声をティラミスは気にすることなく、
かがんで林檎を持ったままの私の手を取る。


「暗殺集団の総帥、昔の想い人の投影、もうひとりの息子を監禁、近親相姦。
 素晴らしいまでに罪ばかりですね」

ニッコリと珍しく笑うティラミス。
それでも、相変わらず感情の読み取れない目をしている。

「…嫌に、はっきり言うね」

「そうですね。
 それでも、あなたを見捨てられないからでしょうね」

言いながら私の手を持ち上げ、
手の中の林檎をシャクリと小さな音を立てて齧った。

「あなたの罪は、私にも分けてもらいますよ。
 全部食べさせていただきたいですが、
 その発端にあの方が関わっているのなら、
 罪でさえもあなたは自分のモノにしていたいでしょう」

だから、分けてもらうだけで我慢しますよ。
そう言って笑うティラミス無感情のままなのに、何処か泣き出しそうだった。


またひとつ、罪が増えた気がした。






06.02.14 Back