求めた人は、違う誰かを求めている。
その求められた相手は、贅沢にもその想いに苦悩している。



Stray.



士官学校で試合が行われた。
優勝者は当然の如くシンタロー様。

後々のマジック様の報復を恐れての結果ではなく、実力でもぎ取ったもの。
それなのに、表彰台にその姿はなかった。

マジック様の計らいにより、優勝者不在のまま表彰式は終わり、
すべてが片付いた今校舎の隅の階段で件の優勝者を偶然にも見つけてしまった。


優勝したというのに暗い雰囲気を漂わせ、じっと地面を見ている。
表情は長く伸ばされた髪によって、うかがい知れない。

無視したいところだが、存在を気づかれている状態ではそんなことは許されない。
けれどもとより、愛想がある性格でもない。
簡単に一言言って去ることを決めた。


「優勝、おめでとうございます」

返事があるとは思っていなかったが、
当然のようにそれはなく、ただ去りがたい空気だけが残る。

「流石、未来の総帥ですね」

マジック様もお喜びでしたよ、と言ってやれば、
シンタロー様は俯いたままぐしゃりと自分の髪を掴んで呟いた。


「…望んじゃいない」

何を馬鹿なことを言っているのだろう。
望んで士官学校に入ったのはシンタロー様だ。

マジック様は士官学校に入ることを快く思っていなかったのに、
それを振り切って入ったのはこの人だ。

「望んだことでしょう」

僅かに浮かんだ苛立ちを隠さずに言った。



「俺は、善人でありたい」

噛みあわない答えを返される。

「無理ですよ」

マジック様を傷つけるばかりのシンタロー様は善人には成り得ないし、
マジック様の想いを受け止めたところで、傷つく自分がいる限り善人には成り得ない。

だから止めを刺すように、必要以上の冷淡な声で同じ言葉を繰り返した。


シンタロー様は俯いたまま、
静かに、そうか、と言っただけだった。


そこには先ほどまで見ていた優勝者の強さや余裕はなく、
迷い子のような、今にも泣き出しそうな不安に惑う雰囲気だけがあった。




05.07.21〜9.25 Back