「何を言ったんですか?」 そう訊いてくるチョコレートロマンスは、珍しくマトモな顔でだった。 Spiral. 「どうした?」 「どうした、じゃなくて、 何をアイツに言ったのか訊いてるんですけど」 チョコレートロマンスが言うアイツは、ただひとりティラミスだから。 「あぁ、ティラミスにね、 ティラミスの子供が抱きたいって言ったんだよ」 ニッコリと笑って言えば、 チョコレートロマンスは思いっきり嫌そうな顔をした。 「…知ってましたけど、最低ですね」 何を今更。 「…ティラミスは?」 「あなたと話がしたかったから、今書庫にいます。 あなたが必要としてた書類を捜すように言ったから、当分帰ってきませんよ」 「…それ、お前に頼んだヤツじゃないのかな?」 そうですね、と悪びれもせずに頷かれる。 チョコレートロマンスは、真面目に働かない。 いつだって、姿を消してサボっている。 だから、急がない簡単な仕事ばかり頼む。 ティラミスに頼めば確実で迅速に片付けてくれるけれど、 彼は寝る間も削ってそれを優先してしまうから、頼まない。 「…また、あの子の睡眠時間が削れてしまうね」 「どうせ、あなたが言った言葉のせいで禄に寝てませんよ。 仕事してたほうがいいんじゃないですか」 …そうだね。 でも。 「私は、そんなに酷いことを言ったかな?」 「自覚ないんですか?」 「ないワケじゃないけどね」 でも、最初から解っていたことじゃないか。 私の一番が誰であるかなんて。 それが、絶対に変わらないことなんて。 そんな私でも、ティラミスのことは好きなんだよ。 シンタローを思う気持ちとは違うけれど。 だから、シンタローの子供なんて許せないけれど、 ティラミスの子供なら、私は嬉しいと、抱いてみたいと思ったんだ。 そう思えるほどに、愛しているんだよ。 「…あなたが、相手を選ぶんですか?」 「そうだよ」 もう数人に絞り込んでいる。 あとは、ティラミスの好みと言えるけれど…、 それはきっと無理で彼は選べないから、私が最後まで決めなくちゃいけない。 「…あなたの言うとおりに、結婚し子供を作る。 それって、アイツにとって幸せだと言えるんですかね」 「言うよ」 確信を持って。 「っどうして」 「だって、私がそれを望んだから」 「…」 「あの子はね、私を愛してるんだよ。 だから、あの子は私が望むことをしてるのが幸せなんだよ」 お前も解っているだろう、と言外に問えば、でも、と言う。 それでも、言葉がすぐに続かないのは、それが本当だと解っているから。 「私の一番にはどうなってもなれない。 あの子は、それを解っている。 だから、積極的に私に対して何もしない。 二番目でもいいから愛して欲しいって思うような子だよ。 そんな子だから、私はあの子を愛してるよ」 「…何もかも、解ってるんですね」 そうだね。 「だから、もうこの話は終わりだよ」 ね、と笑えば、 チョコレートロマンスは反論しそうだったけれど、何も言わずに出て行った。 パタンと閉まった扉を見て、溜息を吐き出す。 何ひとつ、上手くいかないことばかり。 シンタローに愛されたい私。 そんな私を愛してしまったティラミス。 そんなティラミスをシンタローとは違う想いで愛してる私。 ティラミスは、二番目でもいいと思ってる。 そういう風には、私は思えないからこそ、ティラミスを可愛く思ってる。 私がティラミスを本当に愛せればいいのだけど、それは無理な話。 抽斗にしまっていた釣書を取り出す。 どの女性も申し分なく、それでもその中から一番ティラミスに相応しい相手を選び出す。 それが、私の愛情。 ――と、言い切れないのが哀しいね。 それでも、あの子はこんな私でも愛してくれているから、 そんなあの子の子供を抱きたいと思うんだよ。 愛せると思うんだよ。 ごめんね、なんて言える筈もないけれど、 それでも浮かんでしまった言葉を心の奥底に沈みこめた。
08.09.25 ← Back