「どの子がいいかな?」 言われた意味が解らなかった。 Spiral. 「マジック様?」 「私はこの子なんていいかと思うんだけど、ティラミスはどう思う?」 差し出される白いファイル。 嫌な予感のままにそれを開けば、そこには写真と一緒に簡単な経歴があった。 つまりは、見合い写真? 「マジック様?」 一体、いきなり何だと言うのか。 戸惑う私に気づかないでもないだろうに、マジック様はニッコリと笑った。 「ティラミスの子供が抱きたいんだ」 「…何を」 仰るのか、と続くはずだった言葉は、掠れて声にならなかった。 「昔の知り合いがね、こぞって孫自慢をしてくるんだよ。 私としては、何をそんなに嬉しいのか理解に苦しむんだけどね」 それはそうだろう。 親子の情を超え、 何よりも愛してるシンタロー様との間に子供はなせない。 また、シンタロー様が誰かとの間に子供をなしたとしても、 マジック様は可愛がるどころか、許せないと殺してしまう可能性すらある。 「でも――…。 お前の子供なら、って考えたらね、嬉しかったんだ」 だからね、と笑って言われても、困るしかない。 だって、私は。 「私は――…」 「ん?」 言葉を続けようとしても、続いてはくれなかった。 何を言わんとしているのか解ってらっしゃるだろうに、 何も知らない顔で、いや、それさえも解った上で、 だからどうした、とでも言わんばかりにこの人は笑うのだ。 だから、何も言えなくなる。 言いたい言葉は何ひとつ。 「…いえ、何でもありません。 ただ、私の子供だと愛せるんですか?」 あなたとは、何の血の繋がりもないと言うのに。 「勿論だよ。 お前の子供だったら、愛せると思うんだよ」 屈託なく、子供みたいにマジック様は笑う。 喜ばしい言葉なのに、素直に喜べない。 だって、私は――… いや、その言葉は無意味なモノでしかない。 だから、言葉を変える。 「私を――…」 けれど、言葉を変えたところで訊けるはずもなかった。 少しは好きですか、とか、 少しは愛してくれていますか、なんて訊けるワケがない。 「私は、お前が好きだよ」 人の苦悩も気にせず、 マジック様は途切れた言葉の先を読み、あっさりと答えてのけた。 聞きたくて、聞きたくなかった答え。 そう、好き、ですか。 けれど、それは私の子供が見たいと思うくらいには、でしょう? シンタロー様への想いのように、 他の相手との子供を許せないほどの想いとは違うのでしょう? そんな答えなど、聞きたくなかった。 それなのに、少しでも嬉しくないと言ったら嘘になる。 だって、その言葉は真実だから。 シンタロー様を想うようには想ってはくれないけれど、 シンタロー様以外では、一番私を想ってくれているのでしょう? だったら、もう、いいんです。 「私も、マジック様――あなたが好きですよ」 諦めに似た境地で告げた。 この想いに応えていただこうなんて思いません。 ただ伝えたい、と言うワケでもありません。 だって、それは意味のないことだから。 だから、単なる事実を述べるだけのように言った。 日常の挨拶のように、軽く笑ってすら。 笑みは歪んでしまっただろうけれど。 「だから…、相手はマジック様が選んでくださいね」 あなたが、私に合うと思う人を選んでください。 私とその相手との子供が見たい、と言うそれだけの理由で選んでください。 どんなに望んでも、 シンタロー様以上の存在になれないと言うのなら、 それ以外の存在の中で一番だと仰っていただけたら、 私はもう他には何も望みません。 それだけで、幸せだと思ってしまうんです。 他人から見れば、 それは違うと言われようが、 多少胸の痛みを感じたとしても、 それでもやっぱり、私は嬉しいと思ってしまうんですよ。 ――だから、 だから、せめて、あなたが相手を選んでください。 望むなら、 子供だけではなく、幸せな家庭すら演じて見せますから。 あなたが望むというのなら、それは私の望みにすらなるのです。 勿論だよ、と笑うマジック様を残酷だと思いながらも、 私はどうしてもあなたのことを――…
08.08.07 ← Back