ドォーン、ドォーと、 世界が壊れる音がする。 The sound of destruction. 「もうたくさんだ」 今にも泣きそうな声で、シンタローが言った。 「パパから離れるの?」 静かに問えば、シンタローは血の気の引いた顔を上げた。 「シンちゃん。 パパから離れるの? それなら――…」 こんな世界などいらないね、と笑った。 それは優しく微笑んで言ったのか、 脅すように酷薄な笑みで言ったのか、自分でもよく解らなかった。 ただどちらにしても、ますます顔色が青ざめ、 目を見開いて怯えるシンタローにとっては、同じことだったのかもしれない。 怯えたままに、後ずさるシンタロー。 その手を、掴んだ。 加減などできないほどに、強く、強く。 「ねぇ、シンちゃん。 私はお前が傍にいない世界なんて、いらないよ。 この世に私とお前だけになったら、離れない?」 その意味が解らないシンタローではない。 シンタローは動くことさえもできないで、ただ私を怯えた目で見上げてくる。 恐怖で震える手を、ゆっくりと離した。 シンタローは私の目を見上げてくるまま、また後ずさる。 もう止めなかった。 それが解ったのか、振り返って走り出した。 その小さな背に、もう一度言った。 「私は、お前が傍にいない世界なんていらないよ」 それほど大きな声で言ったつもりはないが、 それでも、走り去る背中がビクリと反応したのを見逃さなかった。 意味が解らないはずなどないのに、シンタローは走ることを止めなかった。 「まだ続けるおつもりですか?」 静かに問うてきたのは、ティラミス。 眼下は、一面の瓦礫の山と化していた。 ここにあった国は、もうない。 「だって、無駄な人間が多いんだよ」 ただそれだけ言ったのに、ティラミスは正しく意味を理解する。 まだまだ世界には、無駄な人間が溢れかえっている。 こんなんじゃ、シンタローが私の元に戻ってきてはくれない。 誰もいなくなって、 この世に私とシンタローだけになったら、戻ってきてくれるだろうか。 「…連れ戻せば、いいじゃないですか」 居場所など知っているくせに、と言外に言われた。 「それじゃあ、意味がないんだよ」 知っているくせに、と笑った。 「こんなことを続けても、余計に戻ってきてくれませんよ」 解っていらっしゃるでしょうに、とその目が言っている。 総帥である私に意見する人間など限られる。 弟二人と、このティラミスくらいだ。 「解ってはいるんだけどね。 もう、どうしようもないね」 どうしたらいいか、なんて解らない。 それでも、本当はどうすればいいのか、だけは解っている。 こんなことを、止めればいい。 少なくともそうすれば、シンタローは戻ってきてくれるとは思う。 でも、それができない。 そうして戻ってきてもらっても、違うのだと思う。 こんな私だと解っていて、戻ってきてくれないと意味がない。 でも、こんなことを続ける私のもとに、あの子は戻ってきてくれない。 矛盾ばかりだ、と呟けば、 ティラミスが痛ましげな目で見つめてきた。 手をかざし、瓦礫の山となった地にもう一度眼魔砲を撃った。 音が反響し、こだまする。 ドォーン、ドォーンと音がする。 世界が、私の世界が、壊れる音がする。
06.10.14 ← Back