ドォーン、ドォーと、 世界が壊れる音が聴こえる。 The sound of destruction. 見渡す限りは、荒地。 けれど、よく見ればそこに小さいながらにも国があったことが知れる。 生きてたんだ。 知らない人間が、ここで生活をして生きていたんだ。 それなのに、マジックがそれを奪った。 「何をしてらっしゃるのですか」 冷ややかな声が聴こえた。 振り返れば、声同様に冷ややかな目をしたティラミスがいた。 「シンタロー様、あなたがここにいても何も変らない。 それどころか、悪化するだけです」 解っておいででしょうと、静かな怒気を孕ませて言われた。 ティラミスは、いつもはあまり喋らない。 無表情とも言えるポーカーフェイスで、静かにマジックに仕えている。 反対に、今はティラミスの後ろでオロオロと立っているだけのチョコレートロマンスがよく喋る。 それが一転するのは、マジックに関してだけ。 ティラミスは相変わらずの無表情で、 冷ややかに相手を批判する言葉を口にし、 変ってチョコレートロマンスが、 そんなティラミスの扱いに困りオロオロする。 「お前は、アイツのことになるとムキになるんだな」 そう言うと、黙り込まれた。 それが大人の反応なのか、子どもの反応なのかよく解らない。 ただ同じようなことを俺が言われれば、言い返そうと必死になる。 そんな自分の態度のほうが、よっぽど子どもの反応ってことだけは解る。 俺のが、年下なのにな。 「…帰りましょう」 さっき訊いた言葉は、静かになかったことにされた。 「帰らねぇよ」 視線を巡らせば、砂埃立ちこめる荒地。 永遠と続く、瓦礫と土の山。 もう、たくさんだ。 もう、疲れた。 「嫌なんでしょう? こんな国がいくつもできあがるのなんて」 当たり前だ。 誰だって嫌だろう? 「矛盾してるって解ってますよね?」 冷ややかな声が、背中に聴こえる。 そんなこと、言われるまでもない。 俺が逃げてるってことで、またどこかの国が消されている。 今いる俺の場所から遠く離れた、どこかの国。 俺に、破壊の音が聴こえないように。 破壊の地響きが聴こえないように。 そんな無駄に気遣いするくらいなら、止めろよ。 壊さなくても、いいだろ? 殺さなくっても、いいだろ? 「…どうすれば、いいんだろうな」 弱音なんて、吐きたくなかった。 それも自分よりも年下で、マジックに仕えている人間なんて。 それでも、もう限界だった。 「戻るしか、ないでしょう」 何処までも、冷ややかな声だった。 でもそれは、どうしようもないけれど事実だった。 何もかもが、うまくいかない。 どうすればいいのか、なんて結局解らない。 それでも、どうしなければならないか、だけは解ってしまって、 それがもうどうしようもなくやりきれない。 言われるまでもなく、戻るしかない。 けれど、足が動いてくれない。 疲れ果てたのは、頭なのか身体なのか心なのかさえも解らない。 ただ、視界に荒地が映るだけ。 そして、それと共に、音が聴こえる。 聴こえるはずもないのに、 ドォーン、ドォーンと、破壊の音が聴こえて止まない。
06.10.12 ← Back