怖くて聞けない言葉がある。 否定されることが怖くて、聞けない言葉が―― Sorry,I love you. 「どうして放っておいてくれないんだ?」 いつもみたく喧嘩の中に混じる怒鳴り声ではなく、悲痛な声でシンタローが言った。 両手を強く握り締め俯いている姿に、胸が痛む。 愛しているのに…いや、きっと愛しているから、シンタローを苦しめる。 愛し方が間違っている、と言ったのはハーレムだった。 私の愛し方は、相手を苦しめる、と言った。 馬鹿だね、ハーレム。 そんなことは言われるまでもなく、知っていたよ。 でもそれ以外の愛し方を知らないんだから、仕方ないじゃないか。 「…頼むから…放っておいてくれよ…」 答えない私に、なおもシンタローは悲痛な声で言いつのる。 「シンちゃんは、私が嫌いかい?」 その言葉に、シンタローの肩がビクリと震えた。 卑怯な問い方をした。 そう問えば、シンタローは否定できないと解っているから。 シンタローは、私のことを嫌いではない。 それは解っている。 けれど、愛しているかと言えば、それは解らない。 聞きたくてやまないけれど、答えを聞くことが怖くて聞けないでいる。 否定されれば、どうしたらいいのか解らない。 …いや、自分のすることなど、ひとつしかない。 確実に私はシンタローを閉じ込め、私しか見えないようにするだろう。 そんな愛し方しか、知らないのだから。 けれど、そんなことはしたくはないのも事実。 だから聞けないでいる。 「シンちゃんは、私のことが嫌い?」 「…そんなことは…ない……けど」 シンタローの手を握り締める力が加わった。 小刻みに震えるその両拳を見て、苦しめていると否応なく知らしめられる。 こういう時にだけ、ないに等しい良心というモノが痛む。 けれどシンタローを苦しめていようが、良心が痛もうが、もう引き返せない。 「シンちゃん…愛しているよ」 「俺はっ…」 シンタローが俯いていた顔を上げた。 苦しそうな顔を歪めている。 「…シンちゃん、愛してる」 続くシンタローの言葉を塞ぐように、キスをした。 シンタローは足掻くことはなく、両手を握り締めたまま耐えていた。 シンちゃん、愛してしまってごめんね。 パパは、こんな愛し方しか知らないんだ。 苦しめてばかりでごめんね。 …それでも、パパはシンちゃんを手放せないんだ。
07.25 『Sorry,I love you.』≒愛しちゃって、ゴメンね。 ← Back