「パパが変」

久しぶりに戻ってくれば、
シンタローが涙を浮かべてしがみついて来た。





The kind of love.





「…変って、お前の親父はいつも変だろうが」

どう考えても、誰が考えても、
おかしいとしか言えない人間だと思うぞ。

息子見て鼻血垂らす親なんて。

最近小生意気になって可愛げがなくなってきてたのに、
こういう必死さはまだ子どもらしく可愛く思い頭を撫ぜてやっても、
そうじゃない、と頭を振る。




「だって、僕を避けるんだよ」

今にも泣き出さんほどに涙をめて訴えてくる内容は、
俄かには信じられないモノ。

「…嘘だろ?」

あまりの内容に、咥えていた煙草が落ちた。
それを慌てて消しながら、
嘘じゃないと悔しそうに哀しそうに目を逸らしたシンタローの顎を持ち上げた。

強く睨んでくるその目に、嘘はない。



「…何か、言ってたか」

「…言う前に、パパが僕から逃げてる」

ぎゅっと悔しそうに唇を噛み締めた。

「じゃあ、何かあったか」

「何もないよ」

「最後に見たのは?」

「最後?」

思案するその姿に、
もう何日もマジックがシンタローの傍を離れていることを知る。

有り得ない。
信じられない。

そんな言葉が、ぐるぐると頭に浮かぶ。


「あぁ、昼寝の後」

ぽつりと呟いた答えに、余計にマジックの行動の意味が解らない。

「何だそれ」

「最後に見たパパの姿だよっ。
 僕が昼寝してて、起きたらパパがいたの。
 …凄く哀しそうな顔で僕を見てた。
 だから、どうしたの?って訊こうとしたのに、
 パパ、何も言わずに行っちゃった。
 行かないで、って言ったのに」

泣きそうな声でシンタローが呟いた。



「どんな夢だったんだ?」

「サービス叔父さんの夢」

あぁ、それだ、と思った。

「楽しい夢だったのか?」

気分が重くなるままに訊けば、
今までの泣きそうな顔が嘘だったように、
シンタローは晴れやかに笑う。
けれど、俺の気分は逆に重くなる。

「もちろん。
 だって、サービス叔父さんと滅多に会えないんだよ。
 夢の中で会えるだけでも、嬉しいじゃん。
 そう言えば、
 あんまり嬉しくって、叔父さんって叫んたところで目が覚めたんだよ」

照れ笑いするシンタローに、
それが決定打だよ、なんて言えなかった。

言ったところで、意味など解らないだろうけど。



シンタローは、マジックの過去を知らない。
マジックとサービス、そしてジャンを知らない。
だから、罪はない。

けれど、
その無知が、無邪気さが、残酷なのだ。
マジックを誰よりも幸せにできる存在のくせに、
誰よりも不幸にする存在となる。



どういった理由があるのか知らないが、
ジャンによく似たシンタロー。

サービスはその顔から逃れるようにシンタローを避け、
マジックは逆に、受け入れられなかった愛情をすべて注いだ。

それなのに、
選ばれるのはサービスなのか。


シンタローは、ジャンではない。
けれど、誰もが解らなくなっている。

サービスもマジックも、俺も。



「なぁ、お前マジックが好きか?」

問うている好きの意味合いは何だろう。
俺自身も解らないまま、
意味が解らないと目を瞬くシンタローにまた問う。

「サービスより、好きか?」

瞬間、強い眼差しを感じた。

「当たり前だろ」

迷うことなく、答えられた言葉。
聞かせてやりたいと思った。
逃げ続ける、バカなマジックに。



「それ、言ってやれよ。
 そしたら、帰ってくるぞ」

「本当に?」

「あぁ」

必死に見つめてくる目が、愛おしく哀れだった。



自分がけし掛けたせいで、必ずマジックは帰ってくる。
けれど、その後がどうなるというのか。

シンタローの言う好きの意味合いとは、何なのか。
また、マジックの求める好きは何なのか。

親子の愛情でなくても、別にいい。
ただ、今度こそマジックが幸せになってくれればいいと思うのは、
過去に見ているだけで何もできなかった自分から解放されたいだけなのかもしれない。

そんな陳腐な道具にしてごめんな。

言葉に出来ぬ想いを誤魔化すように、
マジックを探してくると、駆け出したシンタローに手を振った。 





06.03.20 Back