「太陽だよ」 唐突にマジックが言った。 アホ極まりない笑顔でなんかじゃなく、俯きぎみに。 The sun and the moon. 「…何だそれ?」 「だからね。 シンちゃんは、パパにとって太陽ってことだよ」 そんなこと言われても、嬉しくないデス。 しかも、そんな暗い顔で言われて喜ぶヤツなんていません。 あまりに下らないことを言われて、 思わず鳥肌が立ちそうになったけれど、それより先に溜息が出た。 哀しそうに笑う目が見えてしまったから。 「アンタのほうが、太陽だろ」 告げた意味が解らないのか、マジックはゆっくりと顔を上げた。 手を伸ばし、髪に触れる。 「明るい金って、太陽って感じしねぇ?」 普段の自分なら鳥肌モノの言葉も、何故か自然に漏れた。 「色、じゃないよ」 力なくマジックが笑う。 そんなこと知ってる、って思いも込めて笑ってやった。 「お前は、太陽だよ」 そう言って、またマジックは俯いた。 その時、呟かれた言葉は、聞きたくなかった言葉。 ――違うね。 何が?、と思うよりも先に浮かんだのは、自分とよく似た男。 どういう意味で?、と思った時には訊いていた。 「月のがよかったのかよ?」 訊きたかったこととは違ったけれど、似たような内容。 アイツのことはよく知らない。 けど、ふと垣間見てしまったコイツの前での態度は、他とは違っていた気がする。 纏う色同様の闇の中に、 ひっそりと息を潜め、それでも目を光らせて警戒を怠らない。 そんな感じに思えた。 湾曲過ぎて意味が通じないだろう、と思った言葉は、 それでも確かに、マジックに伝わったようだった。 ゆっくりと上げられた視線とぶつかる。 嘘でも誤魔化しでもない、ただ真っ直ぐな目がそこにあった。 「いいや。太陽がいいよ」 見つめられたままに告げられる。 「…そ?」 問いかけも湾曲したものなら、答えも湾曲されたものだった。 けれど、そんな曖昧さに救われた。 「お前は?」 訊かれた意味が解らない。 「お前は、太陽と月ではどちらがいい?」 重ねて訊かれたけれど、 それでも真に意味することが解らずじっとマジックを見やれば、 マジックは自分の髪に手を伸ばし引っ張る。 何気なくされた仕草のようで、意味のあることに気づく。 マジックの明るい金の髪が光に透けて、いっそう明るさを増す。 それを見て、思い出した。 ハーレムもマジックと同じ、明るい金色。 けれど、叔父さんは二人と違って少し淡い金色。 マジックたちを太陽の明るさとすれば、叔父さんは月の淡さだった。 叔父さんに抱く思いは憧れと尊敬だけで、それ以上でもそれ以下でもない。 けれど、マジックはそれが解っていない。 いや本当は解っているのだろうけれど、結局は俺を信じられていない。 俺がその不安を助長させる態度を取っていたとしても、 それでも勘違いするマジックも勘違いされる俺も何処か情けないと思う。 それだけの関係、と言っているようなものだから。 「…色じゃないんだろ?」 「…あぁ、そうだったね」 結局互いに聞きたいことも言いたいことも何も言えず、ただ曖昧に笑った。 踏み出せば何かが変るかもしれないモノが、確かにそこにあった。 けれど互いに踏み出すことができず、再び見ないふりと気づかないふりをする。 何処まで行っても俺はジャンの影を見、 何処まで行ってもマジックは叔父さんの影を見る。 それが影でしかないと解っていても、限り影は付きまとう。 けれど影に怯えることよりも、 明確にされることが怖いふたりは、この先ずっと影に怯えるしかないんだろう。 だから、曖昧に笑って誤魔化しあうしかなかった。 互いに太陽だと戯言を言いながら、 互いにそんな太陽に照らし出された影に怯えている。
05.05.15〜16 ← Back