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キレイなモノだけを見せて、汚いモノは見せないなんて日々。 そんな日々は、長くは続かない。 終わりは、必ず来る。 The past talk. 「シンちゃん、ご飯できたよ。 テレビ消して、手を洗っておいで」 その声に従いシンタローは、 アニメのエンディングが流れるテレビを消そうとリモコンに手を伸ばす。 けれどボタンを押し間違えてしまい、テレビは消されることなくニュースへと切り替わった。 そして、映し出された映像。 遠目にも辺り一面に炎が燃え盛り、 立ち上る黒い煙も、鳴り響く爆音も幼い心に衝撃を与える。 知らず震える身体。 怖くて消し去りたいのに、指は動いてはくれない。 視線さえも、動いてはくれない。 立ち尽くし、ただ震える。 「シンちゃん?どうしたの?」 行動を起さないシンタローを不信に思ったマジックが、 キッチンから顔を覗かすのが気配で解る。 駆け寄ってこの不安を曝け出して抱きしめてもらいたいと思うのに、それもできない。 「シンちゃん?」 「…パ……パ…」 呻くような声が漏れた。 けれど代わらず、指一本どころか視線さえ動かせない。 そんなシンタローに、マジックが漸く異変を感じ駆け寄る。 そして抱き寄せ、その視線の先に気づく。 瞬間、息を呑んだことを幼いシンタローは気づかない。 マジックはその映像を映し出すテレビをすぐにでも消し去りたいと思うが、 シンタローをこれ以上怯えさせることになると思い止まり静かにリモコンに手を伸ばし消した。 画面が何も映し出さなくなり、漸くシンタローの視線がマジックを捕らえた。 抱きしめられた腕にしがみつく。 嗚咽が漏れることも気にせずに、シンタローは泣いた。 その間ずっと、マジックは何も言わずシンタローを抱きしめたままだった。 「…パパ、あれ何?怖いよ」 落ち着きを取り戻したシンタローが、ぽつりと言葉を零した。 何かを言って安心させてあげたいのに、マジックはその言葉を持っていない。 ただ、抱きしめる腕を強める。 けれど幼いシンタローは、それでは満足できず更に言募る。 「パパ、どうしてあんなことするの?」 その言葉に抱きしめていた腕を放しシンタローの目を覗くが、 潤んで見上げてくるその目からは、真意を読むことができない。 それでも、欠片でもいいから真意を読み取ろうとその目を見つめる。 問われた意味が、マジックには解らなかった。 マジックは、シンタローに自分の仕事が何であるか伝えていない。 自分の汚い部分を見せたくないと思っていた。 いや、それよりも見せることが怖いとさえ思っていた。 キレイな人間、などと言えるとは思ってもいないし言うつもりもないが、 それでもシンタローに対してだけは、キレイでありたいと思い続けていたから。 自分のことで、シンタローを傷つけることはしたくなかった。 長くは続かないと解っていても、 それでも隠して守ってキレイなモノだけを見せていたかったから。 だから、先ほどのシンタローの言葉の真意が解らない。 シンタローは自分の父親が何をやっているのか、知っているのだろうか。 「…シンちゃん?」 安心させるどころか、更に不安を煽ってしまうのではないかという情けない声だった。 恐らく声と同様に表情すらも、見せたことのない情けないものなのかもしれない。 見つめていた目が、不安に揺れた。 それを隠すようにゆっくりと閉じられた目が開かれるまでの数瞬が、酷く長く感じた。 再び開かれた目は、真っ直ぐにマジックを見つめて言った。 目は、もう潤んではいなかった。 「火は、熱いよ。 煙を吸うと、喉が痛くて辛いよ。 大きな音がすぐ傍で鳴ると、心臓がビックリして苦しいよ。 どうして、あの人たちは傷つけあいをするの?」 しっかりとした、けれどとても静かな口調でシンタローは言った。 幼さを感じさせない言葉だが、幼いが故に直接的な言葉。 けれどそんなことは、マジックにはどうでもよかった。 シンタローは、『あの人たち』と言った。 マジックがやっていることに、気づいたワケではない。 それだけで、マジックには十分だった。 だから、再び抱きしめる手を伸ばす。 優しく包み込むように。 そして、偽りで優しく包み込む。 「互いに守るものがあるんだよ。 守りたいものが違うとね、争いが起きてしまうんだ」 何を言っているのか、とマジック自身でさえ思う。 けれど、出てきた言葉はそれだった。 真実ではない言葉。 あの戦争をしている片方は自分の団。 でも、理由は今シンタローに言ったようなモノではない。 理由があったかさえ思い出せない、そんな理由で戦争が起こっている。 「守りたいものがあったら、戦争が起きちゃうの?」 再び涙を浮かべて、シンタローが訊いた。 「絶対に、というわけではないけど、起きてしまう場合もあるんだよ」 そう言うと、シンタローは辛そうに顔を歪めた。 そんな顔をさせたくなくて、話を切り上げようとマジックは小さな手を取って立ち上がった。 「ほら、シンちゃん。ご飯冷めちゃうよ」 手を引いて歩こうとするが、シンタローは動かない。 「シンちゃん?」 振り返れば、俯いたシンタローが震える声で訊いた。 「パパの…パパが守りたいものって何?」 どういう意味でシンタローがそんなことを訊いたのか、マジックは解らない。 けれど、その問いの答えなどひとつしかなかった。 「シンちゃん。 パパが守りたいものなんて、シンちゃん以外に何もないよ」 瞬間、繋いでいた手が強く握られた。 震えを誤魔化すように強く。 「シンちゃん?」 「僕だけは、味方だよ。 世界中の人がパパの敵になったとしても、僕だけは味方だから」 搾り出すような悲痛な声で、シンタローが呟いた。 何を思ってシンタローがそんなことを言ったのか、最後までマジックは解らなかった。 けれどその言葉だけで、他はもうどうでもいいと思った。 世界中が敵だろうと、マジックにとってはどうでもいい。 だが逆に、世界中が見方であったとしても、シンタローが敵にまわるというのなら耐えられない。 マジックにとっては、シンタローがすべてだった。 その言葉だけで、すべてが幸せに変った。 だから未だ俯いたまま震えるシンタローも、 抱き上げ抱きしめるだけで、その言葉の意味を深く言及しなかった。 だから、マジックは知らない。 先ほどのニュースで映った映像の中に、 団の旗が一瞬映ったことをシンタローが見てしまったことを。 また、その戦争が自分を守るために起こっているとシンタローが勘違いしてしまったを。 そして、今まで知らなかった父親の一面を知って恐れを抱いても、 それでも、傍にいたいと思ったということを。 だから、マジックは知らない。 キレイなモノだけを見せ続けることができた時が、終わりを告げたことを。
05.04.25~05.03 ← Back