大好き。 愛してる。 馬鹿みたいに笑顔全開で告げてくる。 いい加減、何年も言われ続けたら怒りを通り越し呆れがきた。 Never saying. 「いい加減、飽きねぇのかよ?」 ため息混じりに問えば、 子どもみたいに感情をぶつけてきた笑みは消え、誤魔化すような大人特有の苦笑が浮かんだ。 何でそんな顔する?、と疑問を口にするよりも早く、マジックは呟いた。 信じられないことに、俺から目を逸らしながら。 「言葉にしなければ…伝わらないから」 酷く掠れた声が、そう告げた。 聴いたことのない声。 見たことのない表情。 俺の知らないマジックの過去がよぎる。 不安になるのは、何故だろう。 そして理由を訊けばさらに不安になると解っていても、 何故今、俺の口は問おうと開かれるのか。 「…誰に伝えたかったのか?」 声が震えた。 マジックが顔を上げる。 哀しそうな目で、笑った。 「…絶対に私を選ばないと解っていた人。 シンちゃんの…全然知らない人だよ」 嘘吐き。 知らない人だと、マジックは言う。 でも、目がそうは言ってない。 俺を見ていながらも、違う誰かを見ている。 それが誰なのか、俺は知っている。 マジックは俺が知っていることに気づいていないだろうけれど、俺は知っていた。 何となく解っていた。 絶対にひとり以外を選ばないアイツ。 俺に似たアイツ。 ――いや、違う。 アイツが俺に似てるんじゃない。 俺がアイツに似ているんだ。 手を伸ばし、マジックの首に絡め引き寄せる。 驚くマジックを無視し、肩に顔を埋める。 今マジックは誰を見ているのだろう。 誰に、愛してる、と言っているのだろう。 ――俺は誰かの代わりか? そう訊けたら、よかった。 でも肯定されたら、どうすればいい? なぁ、どうしたらいい? 問うことなどできなかった。 かといって、マジックのように後々後悔すると解っていても、 気持ちを告げる言葉など言えるはずもなく。 ただ俺ができることは、 優しく俺を抱きしめ『愛してる』と告げてくるマジックの言葉に応えることなく、 抱きしめる力を強めることだった。 『愛してる』など、死んでも言わない。 言葉にしなければ伝わらない軽い想いなど、持ち合わせていない。 気づかないというのなら、アンタはその程度しか俺を愛していなかったんだよ。 言葉でしか伝わらないこともあれば、 言葉では伝わらないことがあるということも、アンタは思い知ればいい。
10.15 ← Back