なっ…何なんだこれは!?
0が多くないか?

働いた覚えはある。
日々残業で、休みなんて1度しかなかったんだし。

でも、何だこの額は?







A payday.







「シンタロー様、何か?」

その声に振り返りもせず、訊く。
給料明細を持つ手がぷるぷると震える俺の後ろで、声をかけてくる声が。

「ティ…ティラミス。
 何だこの額は!?」

思わず声までも震えてしまえば、ティラミスは溜息を吐いた。

「…申し訳ございません。
 しかし、シンタロー様はまだ慣れぬ総帥の仕事のため、
 予定内に終わっていないこともありますからそれくらいとなっております。
 次回からは―…」

…誰が、少ないって言った。

「違うっ。
 何だこの額多すぎだろ?」

振り返り焦りを露にしても、ティラミスは不思議そうな顔をするだけ。




「そうですか?
 マジック様は、もう一桁違われましたよ?」

「…もう一桁?」

「はい」

このもう一桁って…。
そんな額、誰が一月で使いきれるってんだ。

「…アイツが、何に使ってたか知ってるか?」

何となく答えが解ってしまはないでもないけれど、
それでも気になって訊けば、何でもないことのようにさらりと答えられる。

「シンタローさまに使われてましたね。
 いいビデオが出たらそれを買い、それを再生するためにシアターを作ったり、
 果ては、シンタロー様を追いかけるために各地に別宅を買い…」

まだまだ続くように、ティラミスは真面目な顔で指を折っていく。

「…もういい」

「そうですか?」


ティラミスを下がらせて、もう一度明細を見る。
どうみても、これだけで数ヶ月は何もしなくても暮らせていけるだけの金だ。

それなのに、それ以上の金を貰いながら、あのバカは使い切っていたという。
しかも、すべて俺が知らない間に俺につぎ込んでいたらしい。

それはどう考えても、無駄としか言えないことで…。

ティラミスを追いかけ、呼び止めた。




「なぁ、あのクソ親父まだ給料貰ってんのか?」

「えぇ、金額は減りましたが、
 士官学校の理事長でございますし、まだ団にも貢献していただいてますので」

それが何か?、とティラミスが問う。
それに、力なく答えた。

「もう一銭もやらなくていいから。
 碌なことに使わないなら、やらないほうが団のためだ」

「…総帥命令ですか?」

何気なく訊かれたようで、
何処か冷たく聴こえたその声に戸惑いながらも返事をした。

「…あ…あぁ」

「…では、来月からはそのように」

そう言って、背を向けたティラミス。



いつも…いつも思うことがある。

ティラミスにとって、マジックとは何なのだろう。
ふたりの間に、触れられない秘密があるようで、怖いと感じてしまう。


考えれば考えるほどに怖くなってしまうその思考から逃れるように、大きくかぶりを振った。
今考えるべきことは、この金の使い道。

禄に休みもせず、稼いだ金だ。
あのバカのように無駄なことには使わず、有意義に使わなければ。

とりあえず、コタローの服でも買ってやろう。







04.12.29 Back