夜中の訪問者は、予想に違わずマジック様。
私は何も言わず、ドアを開けた。







Lover.







彼は自分から来ておいて、言葉を発しない。
ただ深くソファに座り、目を閉じている。

そんな彼に、紅茶を差し出す。
カップを受け取り、彼が少し笑った。



「やっぱり、お前の淹れたお茶は美味しいね。
 シンタローは日本茶なら美味しく淹れてくれるんだけど、
 紅茶はちょっと雑になってしまうんだ。
 日本で育てたせいかな…。
 それでも、あの子が淹れてくれた紅茶も美味しいんだけどね」

ここに来てまで、シンタロー様のことを仰るんですね。
あなたは一体何をしに此処に来られたのですか。

そんな言葉を飲み込んで、ただ彼を見下ろした。
ソファに座る彼は、私を見上げ微笑む。

そしてカップをテーブルに置いて、手を伸ばす。

その手を取る。
引き寄せられる。


それは抱きしめられるというより、しがみつかれているようで、
私は宥めるように癒すように抱きしめた。

一層強められる腕に、ただ優しく髪を撫でることで返す。

言葉は、何もなかった。




彼は最後に強く抱きしめ、ゆっくりとまわしていた腕を放す。
見上げてくる彼の顔は、来たときと同様に苦笑が浮かんでいた。

彼の苦しみを軽減することもできず、私は彼を見送った。



彼がいた間、会話は一切なかった。

ただお茶を飲み、彼が言葉を零しただけだ。
私は、何も話していない。
それ以降、彼も話していない。





彼は、何故ここに来るのだろう。
何を私に求めているのだろう。


深く考えてはいけない、と何度も胸に誓ったことが、
いつも彼の背中を見ては揺らぐ。


けれど手を差し伸べたところで、彼が選ぶのはこの手ではないと知っていた。
だから私は何も言わず、ただ彼がここに来ることを待っているしかなかった。






04.12.17〜05.01.03 Lover=愛人。 Back