いつものことながら、人が忙しく残業している時に限ってマジックがくる。
そして、下らないことを言う。







Wish.







「シンちゃん、お願いがあるんだけどいいかな?」

「てめぇで叶えろ」

「…そりゃあ、パパ、
 シンちゃんよりお金いっぱいあるけど…」

「…(死ね)…」

「でも、パパそんなのいらないから、
 ずっとシンちゃんに傍にいてほしいんだけど、ダメかな?」

マジックが纏う雰囲気が、変わった。
柔らかく笑いかけながらも、その奥が笑っていない。

不安になる。



「…バカじゃねぇの?」

返す声が、震えそうになる。

「パパのために、傍にいてくれないかな?」

それは、懇願の響きに似ていた。
引きずられそうになる。

「…今、いるじゃねぇか」

振り切るように視線を逸らし、手元の書類を見やる。

「ずっと、がいいんだよ」

その言葉に顔を上げれば、じっと俺を見つめるマジックが…。

泣き出しそうだ、と思うのは、何かの錯覚なのだろうか。
けれどそう思いながらも、呟いていた。






「…願いは、自分で叶えるもんなんだろ」

その言葉にマジックは一瞬驚いた後、満面の笑みで笑った。

「…うん。パパ頑張るよ。
 シンちゃんが、ずっと傍にいてもいいと思えるように」

嬉しさを隠しもせずに笑うマジック。
それに不安を覚え、書類に目を戻す。

どうして、コイツはこうなのだろう。
何でも持ってるのに、どうして俺のこととなるとこうまで不安になるのか。

傍にいてもいいと思えるように、頑張る?

奪うことしか知らないマジックが、そんな態度をとるのは俺しかいないだろう。




怖くなる。
深すぎる愛情に、引きずり込まれそうになる。

俯いていたら溺れる感覚に襲われ酸素を求めて顔を上げれば、マジックと目が合った。

苦笑に近い笑みで、笑いかけられる。

心臓が締め付けられるような痛みを感じる。
言葉を失う。

マジックの目に、不安に戸惑う俺が映っている。







「ごめんね」

呟かれた言葉。

声が不自然に途切れた。
心臓が、激しく音を立てる。

「な…にが…?」

問う声は、掠れた。

問いながらも、答えを求めてはいなかった。
答えを聞くことが、怖かった。

それを悟ったのか、ふっとマジックが笑う。




「…傍に、いてね」

言って、抱きしめられる。
振り払おうと頭は思うのに、行動が伴ってはくれない。

ただ何もできず抱きしめられたまま、努力しろ、と呟けば、
マジックはもう一度、ごめんね、と言った。


そんな言葉が欲しいワケじゃなかった。
でも、それすらも、言えなかった。






〜05.02.06 『君のくれたもの』=傍にいてもいいと許してくれたこと。 Back