真っ白いウェディングドレスに身を包んだ新婦とタキシードを着た新郎によって、 目の前のキャンドルに灯りが灯される。 隣のマジック様がニッコリと笑って応えれば、幸せの絶頂にいる筈の新婦が儚げに笑った。 Nothing is noticed. 「…嬉しそうですね」 式も終わり私の運転で帰途につく中訊けば、マジック様はニッコリと笑った。 「勿論」 「新婦の父親とは団の経営上親しかったと存じ上げておりますが、 まさか新婦とも親しい関係だったとは全く気づいていませんでしたよ」 少し棘が混じった言葉にも構わず笑みを浮かべ、流れる景色に視線を投げる。 「そんなに親しいワケじゃないよ。 ただ、一度会っただけだよ」 ただ一度会っただけ、ね。 けれどその一度で彼女は、あなたに溺れてしまったワケですか。 流石ですね。 ズキリと胸が音を立て痛むのと同時に、静かな怒りが湧いた。 「今はシンタローさまが傍にいらっしゃるのに、珍しいですね」 「馬鹿だね、ティラミス。 私がシンタローが傍にいる今、他の人間に興味を持つはずないじゃないか」 マジック様が、心外だ、と笑う。 そうですね。 最愛のあの人が傍にいる今、 あなたが他の人間のために1秒たりとも割く時間などない。 ――けれど、それでは何故? ちらりと視線を向ければ、マジック様は口の端を上げて笑った。 「あの子の父親がシンタローとあの子の見合いを持ちかけてきたんだよ。 愚かしいにも程があるよね。 私以外に誰もシンタローに相応しい人間などいないというのに」 言いながら、珍しく煙草を取り出し火をつける。 「けれど、あの子には罪がないじゃないか。 だから私が自ら出向いて、お願いしたんだよ」 クスクスと楽しそうに笑いながら、マジック様は笑う。 バックミラー越しにマジック様を見つめ、訊いた。 「お願い、ですか?」 マジック様は私の目を見据え、 変わらず笑みをたたえたまま、お願いだよ、と返した。 もう、私には返す言葉など何もない。 視線を前方へと移し、無言で運転する。 マジック様が、馬鹿にしたような笑みで私を見ているのが目の端に移った。 けれど気づかないふりをするしか、私にはできなかった。 告げられぬ想い。 告げる気のない想い。 けれど、知られてしまっている想い。 だから、私は何も知らないふりをする。 気づかれていることも、あなたを想う気持ちそのものも気づかないふりをする。 私の現実に、あなたはいない。 現実と幻想の狭間に、あなたがいる。 そう思うことで、気づかないふりをし続ける。
〜04.11.18 『Nothing is noticed.』≒何も気づかない。 ← Back