『愛してるよ』

何度そう告げられたところで、心動かされることはない。
言葉は軽く、その場限りのモノでしかない。
そんなモノを信じろと、マジックは言うのだろうか。






Kiss of beginning.







「…信じない」

いい加減、もういい。
そんな言葉を貰ったところで、俺は絶対に信じることなどないのだから。

「…どうしたら、信じてくれるの?」

真っ直ぐに見据えてきながらも、浮かぶ苦笑で問われる。
その目を真っ直ぐに見返しながら、呟いた。

「態度で示せば?」

その言葉に、ゆっくりとマジックは目を閉じる。
そして再びゆっくりと開けられたそこには、肉食獣を思わせる強い目があって…。

「いいの?」

「信じて欲しいのなら」


そう答えながらも、それは違うと知っていた。
信じて欲しいから、ではなく、
本当は、信じさせて欲しいから、だ。

なんて、情けない。
けれど、それはどうしようもない本音。


絡み合う視線。
緊迫した場の雰囲気。

けれどきっと互いに、現実感を伴っていなかった。
白々しかった。
でも、互いに流されたかった。



近づく手に、目を閉じる。
触れる大きな手は、何年ぶりか。

幼少期、この手で安心を覚えていた。
そして今も、安堵を覚えている。

還る場所はここでしかない、と思い知らされる。
望む場所も、ここでしかない、と。




唇に触れた、温もり。
すぐに離れたそれ。

目を開ければ、表情のないマジックの顔が。

何を、思っているのだろう。
そして、俺は何を思っているのだろう。

数瞬見つめあって、マジックがまた問う。




「いいの?」

後には戻れないよ、と告げてくる。

「信じて欲しいんだろ?」

変わらぬ答えを告げる。

「信じて欲しいけど…、それだけのために一線を越えていいの?
 元には、もう戻れないよ。
 私は、もう我慢することを止めるよ。
 お前は、本当にそれでもいいの?」

「…別に」
 
「…そう。
 でもどうせなら、違う言葉で了承を得たかったよ」

マジックが、苦笑する。
その言葉は、聞かなかったことにする。



傷つくことが、怖い。
自分が望んでいることを例え知られていたとしても、それを言葉にする強さはない。
下手に期待を持って、後で裏切られることが怖いから。

それが卑怯だと解っていても、俺は何も言わない。
この先、一生言うつもりもない。


だから答えない代わりに、目を閉じた。
だから答えない代わりに、腕をマジックに回した。






04.11.28 『Kiss of beginning.』=始まりのキス。 Back