「任務とあたしとどっちが大事なの?」

何度も女に言われてきた言葉が、頭をよぎった。
苦笑した。
笑うしかなかった。






Fool's maze.

『行かないで』 声にならない言葉で、君の腕を掴む。 君は、振り返る。 困った顔をしてくれたら、まだ、良かった。 けれど、君は眉間に皺を寄せ、その手を振り切る。 そのまま何も言わずに、玄関へと向かう。 その姿は、以前の俺の姿。 俺が、女にしてきた姿。 もう、終わりなのかもしれない。 だって、俺はこうなったら、女との関係を断っていったから。 縋りつく女を宥めるのではなく、その手を振り払い、女を捨ててきたから。 「任務とあたしとどっちが大事なの?」なんて言う愚かな女に興味は引き、 一秒も考えるまでもなく、『任務』だという答えは明確に頭に存在する。 けれど、逆の立場となった今では、哀しいことに女たちの気持ちが解ってしまった。 任務と自分を天秤にかけて欲しいワケじゃなかったんだ。 ただ、彼女たちは心配だったのだ。 どんな任務に行くか一切知らされず、 生きて帰ってくるかどうかも知らされないまま出て行く俺を止めたかった。 ただ、それだけ。 単純で明快。 彼女たちは、止めたかった。 ただ、それだけ。 そして、止める枷となるものが、『自分』以外に見出せなかった。 だから、あの愚かしい言葉を吐き出した。 ただ、それだけ。 下らない言葉と思っていたのに、やけに重い言葉を彼女たちは吐いていたのだ。 行き場を無くした手は、未だに宙を彷徨ったまま。 遠くでドアが閉まる音が聴こえた。 サスケ、俺はお前を止めたいよ。 死地に向かうな。 まだ、野望は何一つ成しえていないんだろ? 俺がいる限り、ひとつは叶えさせる気なんてさらさらないけれど、 それでも、もうひとつは絶対に叶えて見せるんだろ? お前は、まだ生きなければならない。 まだ、生きなければならない。 …行くなよ。 数日後、サスケの死体が回収された。 『俺と任務どっちが大事なの?』 そんな愚かしい言葉を吐けばよかった? 吐いたら、少しは変わっていた? 愚かしい言葉に捕らわれて、 過ぎ去った時間を悔やむ愚かしい行為に没頭していた俺は、気づかなかった。 ドアを閉めたサスケが、声を殺して泣いていたことを。 俺は、気づかなかった。 愚かな言葉は、愚かな行為を生み、また愚かな結果を生み出す。 どこから修正をすればいいのか、解らない。 出口の見えない、愚かな迷路に愚かな俺は捕まった。
03.09.02〜09.03 03.09.07 微妙に修正。 『Fool's maze.』=愚者の迷路 サスケの任務  →『危険な暗部の任務に出かけていった』ということで、   イタチの処に行って返り討ちじゃないです。 説明しなきゃ解らない書き方で、申し訳ない。
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