The day of collapse.
どこまでも高い青く澄み切った、雲ひとつない空。 春の暖かな日差しの中、修業もそこそこに草の上に寝そべる。 夏並みに照りつける太陽は眩しい。 けれど、それを遮る影。 「お前も元気だねぇ。  目の下にクマ作ってるんだから、昨日遅かったんだろ?  任務のない時くらい身体安めろよ」 「…」 馬鹿がいた。 「何、無視してんの。  折角、人が修業つけてやろうと思ったのに」 「…」 無視しても馬鹿は自分の思うようにするらしい。 勝手に人の横に座り込み、ひとりでべらべら喋りだす。 それも無視して、目を閉じる。 馬鹿が一通り喋り尽くした後、口を噤んだ。 沈黙が流れた。 心地よいはずの静けさは得られず、居心地の悪さだけが残る。 目を開けると馬鹿と目が合って、馬鹿は笑った。 「こんなに天気がいいとさー。  ちょっと考えちゃわない?」 へらりと胡散臭そうな顔で馬鹿が言う。 目で続きを促す。 「早く目を覚ませよ、って思っちゃわない?」 「…」 馬鹿の言葉は、意味不明。 けれど、無視しようにも何故かこの場を取り巻く雰囲気が許さない。 馬鹿から、目が、離せない。 馬鹿は、俺の視線を受け止め笑う。 「東の国あたりの宗教の話なんだけどね。  俺達が生きてるこの世界は、神だか仏だか…まぁ誰かの夢でしかないんだって。  そいつが目覚めると、この世界は崩壊するんだって。  ね、だからさ、  早く目覚ませよ、って思っちゃわない?」 馬鹿は何処までも馬鹿で、 それはもう、哀しくなるくらい馬鹿だった。 普通なら、逆だろ。 天気いいんだぞ。 今、平和なんだぞ。 離れたところでは人が生死を彷徨っていようが、今、俺達がいる状態は平和そのものだろ。 なのに、それなのに、アンタは崩壊すればいいって言うんだな。 今、自分の目はきっと憐憫の色に染まっているだろう。 馬鹿だと蔑むことはもうできなかった。 ただ、哀れだった。 「ね、サスケもそう思うよね?」 それでもまだ、笑って訊いてくるアンタは本当に哀れだった。 「…馬鹿だな」 声だけでも馬鹿にした色を含ませたかったけど、それすらも無理で、無残にも声は掠れてしまった。 馬鹿は困ったように笑った。 「そう?」 「あぁ」 馬鹿がまた笑ったけど、見ていたくなくてまた目を閉じた。 目が熱い。 きっと今目を開けたら、意味もなく水分が流れ落ちるだろう。 だから、必死に目を閉じた。 その目に、ひんやりと冷たい手の感触。 「でもさ、今世界が崩壊しても、俺幸せだと思うんだけどね。  天気よくて気持ちいいし、何よりサスケが傍にいるしね。  ね、だから、きっと今崩壊しても、大丈夫だよ。  幸せの中で、終われるよ」 最高だね、と笑う気配を目に置かれた手が伝えてくる。 やっぱ、アンタ馬鹿だ。 そう言いたかったけれど、 声に出したらきっと無意味に水分が流れ落ちてしまうから、唇を噛んで我慢した。 馬鹿を、ただ馬鹿だ、と思っているままだったらよかった。 馬鹿に哀れみなんて、感じたくなかった。 馬鹿に哀れみを感じる理由に、気づかなければよかった。 その意味を、知らなければよかった。 そうすれば、この胸は痛むことなんてなかったのに…。
04.04.18 『The day of collapse』=崩壊の日。
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