どういうワケだか、空が異常に赤くって、
どういうワケだか、その原因の太陽はいつもより大きく見えて、
そのせいで、それから放たれる鈍い赤が、すべてを染めていた。








残映
思わず立ち止まって見た道行く人も、汚染された川も、自分の手すらも、赤い色。 赤い、赤い、血の色。 赤は昔を思い出す。 血にまみれていた暗部時代を思い出す。 あの頃は、この色と暗闇ばかりを見ていた気がする。 あぁ、気がするなんてものじゃない。 実際にそうだった。 闇を走りぬけ、標的を殺して、闇へ帰る。 見ていたのは事実、赤と闇だけ。 手を見ると、左手首にはスーパーの買い物袋が引っかかっていて、右手は愛読書を持っている。 以前みたいに、血にまみれたクナイを握りこんでいるワケではない。 何て平和な格好。 それなのに、以前と同じように自分の手は赤く染まっている。 まるでそれは、罪のよう。 消えることのない罪のよう。 視線を巡らせば、道行く人も汚染された川も未だに赤くって、 まるで地獄に迷い込んだ錯覚を覚える。 血まみれの人間が歩いている。 血に染まった川が流れてる。 これはお前が壊してきた世界だ、と断罪されている、そんな錯覚を覚える。 左手にはスーパーの買い物袋が引っかかっていて、右手には愛読書があって、 道行く人も、いつもと同じように歩いている。 いつもと違うのは、全てが赤く染まっているということ。 ただそれだけなのに、日常が血に染まった。 自分が壊してきた世界がここにある。 手に視線を戻せば、変わらず赤く染まっていて、 この手が、壊したのだと誰かが叫ぶ声が聴こえる。 お前が、壊したのだと、叫ぶ声が聴こえる。 ばさっと音を立てて、買い物袋も本も落ちた。 力なく手に視線を向ければ、赤に染まった手があるだけ。 この手が壊した。 誰かの日常をこの手が、壊した。 「カカシ?」 振り返れば、サスケがいた。 不思議そうに見つめてくる。 声が出ない。 だって、サスケも赤く染まっている。 「カカシ?」 サスケ、お前も赤いよ。 何で、赤いの? 俺が殺したの? 俺がお前を殺すの? 「…アンタ、何泣いてるんだ?」 伸ばされた手が、頬に触れる。 温かい。 あぁ、お前は生きている。 「おい、アンタ訊いてるのか?  何、街中で泣いてんだよ」 サスケが何かを言っている。 戸惑いながらも、焦りが滲む声。 でも、何を言っているかよくは解からない。 そんなことはどうでもよくて、ただお前が生きているということだけで安心して、 場所とか人目とかそんなのどうでもよくて、かき抱いた。 いつもだったら、暴れるのにサスケは大人しく腕の中に収まったまま。 しかも、背に腕まで回してくれている。 これは、やはり現実ではないのだろうか。 ここはやはり地獄で、道行く人は俺が殺した人たちで、流れる川は血の川で、 目の前にいるサスケも俺が殺してしまったのかもしれない。 そんな世界なのかもしれない。 けれど、それでもお前がいるのなら、 罪を見せ付けられながらでも、生きていけると思った。 お前がいるのなら、どんな処でもいいと思った。 ねぇ、サスケ。 これが現実かもしれないし、ただの幻かもしれないし、これから起こることなのかもしれない。 でも、それでも、お前がいてくれるだけで、いいと思った。 いつか、俺はお前を殺してしまうのかもしれないけれど、その時は許してね。 地獄でも何処でも、お前になら罰せられる覚悟はあるから。 お前がその手で断罪してくれるというのなら、それは俺の望むところだから。 ただお前が傍にいてくれたら、それだけでいいから。
2003.12.06 2003.12.13 加筆修正。 残映=・夕焼け。夕映え。    ・転じて、消えたものの名残。
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