八百屋に行くと、おまけに花火をもらった。
色とりどりに装飾された花火は、見ていたくなかった。
昔を思い出しそうで、見たくなかった。
だから、物置の中へと仕舞いこんだ。






花火
突然、カカシが訊ねてきて、買い物袋に入ったたくさんのトマトを押し付けると、 何も言わずにいきなり部屋を物色し始めた。 何度も、やめろ、と言ったのだが、いいから、いいから、と言って物色をやめない。 何を探しているのか解らなかったけれど、 とりあえず止めることはできないということだけは解ったので、諦めて放っておく。 30分程すると、あった!、という大きな声が聞こえてきた。 何をそんなにまでして探していたのだろう。 そう思い、声の聞こえてきたほうへ足を向ける。 足音を聞きつけ振り返るカカシは、ホクホクとした笑顔を浮かべている。 そして、手元には、あの花火。 閉まったはずの、あの花火。 「…何で?」 「帰りに八百屋に行ったら、そこの親父がサスケに花火あげたって言ってたから」 「…何で?」 先ほどとは違う意味合いで訊く。 僅かに、声が震えた。 カカシは少しだけ困った顔をした。 「なんとなく、サスケは閉まっちゃうんじゃないかな、って思ったから」 それから、小さく付け足した。 「捨てるってことは、絶対にしないと思ったんだよね。  捨てれないよね?」 そう訊くカカシは、やはり困ったような笑顔を浮かべている。 貰ったものは捨てられない、そう言った意味合いで言っているのではなく、 『花火』というものから連想させるものを捨てられない、という意味合いで言ってることが解った。 直接的でない言葉。 だからこそ、酷く染み入る。 「…何で?」 何でアンタは解るの? 何でアンタはそこまで優しいの? 言葉にならなかった想いは、ポタリポタリと床に小さな染みを作った。 カカシはそんな俺を抱きしめた。 「サスケだから。  そして、俺だから…」 全ての答えは、その言葉で包み込まれた。 そして、その瞬間、声を出して泣いた。 あの日以来、初めて泣いた。 カカシは強く俺を抱きしめ、あやす。 「今日、花火しよっか…」 答えたかったけれど、声が出なくて何度も何度も頷いた。 見たくなかった。 けれど、捨てることもできなかった。 それを捨てなくていいと、アンタは言った。 一緒にしようと、アンタは言った。 ふたり一緒なら、きっと思い出しても辛くはないだろう。 アンタがいてよかった。 アンタだから、よかった…。
2003.08.29
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