こんなモノでお前を縛られるなんて、思っちゃいない。
こんなモノでお前を繋ぎとめられるなんて、思っちゃいない。
でも、それでも――
束の間の夢
「カカシ」 呼び止められ振り向けば、咥え煙草のアスマがいた。 「何だよ」 「いいもんやるよ」 言って放り投げられたモノを受け取る。 「…お前、どんな趣味してんの?」 「お前よりいい趣味」 ニヤリと笑ってかわされる。 溜息が零れ出た。 「いらないよ、こんなモノ」 「そうか?  お前、欲しかったんだろ」 そう言って、言葉を返す暇もないままにアスマは去っていった。 誰が欲しいと言った、誰が。 手には投げ寄越された手錠が鈍く光っていた。 そんな会話をしたのが、ほんの数日前。 今ならアスマの言った言葉の意味が解かった気がした。 俺の左手首にはあの時鈍く光った銀の輪があって、それから出ている鎖を辿れば自分より細いサスケの右腕がある。 そして、さらにその腕を辿れば、血に汚れ気を失うサスケがいる。 俺が、やった。 だって、お前があんなことを言うから。 イタチのもとに行く、なんて言うから。 殺られるから今は止めろ、と止めたのに、それでもお前は振り切って行こうとするから。 だから散々殴って気を失わせて、何処にも行けないようにした。 お前は動かなくなったと言うのに、それでも、今にも飛び出して行きそうで、 馬鹿みたいに狼狽えているところに視界に入ったのは、あの鈍く光る銀の――手錠。 カチャリと硬質な音を立てて、お前の白く細い手に嵌める。 そして、片方を自分の手首に嵌める。 自分の愚かさに笑えた。 それなのに、何処か安堵する自分もいた。 それは、酷く滑稽だった。 倒れこんだサスケの横に座り込み、 やりきれなくて、くしゃりと自分の前髪を掴めば視界には鎖が見えて、それを辿ればお前の白く細い腕がある。 手錠で繋がった手は、お前の重みを伝えてくる。 お前がまだ傍にいるのだと音が、重みが、伝えてくる。 そうでもしなければ、お前の存在を確認できない。 この目だけでは、自分が信じられないところまで来てしまった。 ほんの数日前には、こんなモノいらなかったのに。 ほんの数日前には、この目に映るものだけを信じられたのに。 たった一言、お前が言った言葉で、こんなにも変わってしまった。 こんなモノでお前を縛られるなんて、思っちゃいない。 こんなモノでお前を繋ぎとめられるなんて、思っちゃいない。 でも、それでも、束の間の夢が見たかった――
2004.01.02〜01.03
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