視界に映るのは、白と赤と、人の足。
白い粉雪と、真っ赤な火の粉が舞い散る中、逃げ惑う人の足。
聴こえてくるのは、人の声。
泣き叫び、喚く人の声。
World's end day.
どれもこれも現実だと言うのに、どこか現実的ではない。
だから、馬鹿みたいに座り込んだ。
人の波を避けるように、道の端に座り込んだ。
座りこんだ視界は、当然の如く低くて、左から右に逃げ惑う足が見えるだけ。
他は何も見えない。
きっと、逃げ惑う人にも自分は見えていない。
彼らの目に、自分は映らない。
――それが、どうした?
原因がある街の方を見れば、馬鹿みたいに燃え盛っている。
そして、ワケのわからない巨大なモノが街を襲っている。
それは、確実にこちらに向かっている。
そう時間もかからないうちに、アレはここに来る。
その時、自分はどうするというのだろう。
そもそも、アレは一体何なのか。
そんなことを考えて、意識を彷徨わせていたら声をかけられた。
見上げれば、カカシが目の前に立っていて、
いつもと変わらぬ張り付いた笑顔で笑うものだから、現状を忘れそうになる。
けれど、カカシの後ろにはやっぱり逃げ惑う人がいて、
意識を戻せば、泣き叫び喚く声も聴こえるから、やはりこれは現実なのだろう。
カカシが相変らず張り付いた笑みとともに、手を差し出す。
その意味は?
「ねぇ、サスケ」
その言葉に続くのは?
『一緒に逃げよう』なんて言ったら、笑うぞ。
「見たくない?」
何?
予想外の言葉に目で問えば、カカシが視線を街に向ける。
それを追えば、あのワケの解からないアレがいる。
視線をカカシに戻すと、カカシが笑った。
張り付いた笑みではなく、人を喰った笑みで。
「アレ、見たくない?」
この状況で、アンタはそれを言うんだな。
逃げ惑う人を、声を背に、笑ってそれを言うんだな。
「…いいぜ」
差し出された手を取ったら、力強く引き寄せられる。
繋いだ手をそのままに、アレに向かった。
走りながら逃げ惑う人にガンガンぶち当たられながら、ふたり悠長に歩いていく。
口には不敵な笑みをのせて。
なぁ、この道の先には、何があるんだろうな。
炎のせいでアレ本体に近づくこともできず、
ただその炎と死体だけしか見えないかもしれないけれど、アレが何なのか知ることができるかもな。
それとも、単に俺たちの死だけがそこにあるのか――
どっちにしろ、この先には何があるんだろうな。
それを知るために、
白い粉雪と赤い火の粉が舞う中、
喚き逃げ惑う人々ににぶち当たられながら、ふたり人の波に逆らって歩いていく。
2003.12.21〜12.27,
2004.01.13 微修正。
『World's end day. 』=世界最後の日。
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