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「コソ泥」

「違う、怪盗」

「どっちも同じだろ?」

「違うよ。激しく否定したくなるくらいには。
 それにコソコソしてないじゃん、俺」

まぁな。
玄関からの侵入ではなく窓からだけど、
それでも俺の目の前の窓からどうどうと入って来やがったもんな。

「じゃ、ドロボウ」

「…名探偵」

ドロボウは、ガックリと肩を落とした。



「返せよ」

唐突に言った言葉に、ドロボウは目を瞬いたがすぐに笑った。

「ちゃんと返してきたよ。
 俺が盗品持って、名探偵んトコに来るはずないだろ?」

「違う」

それじゃない。
別のモノ。

「返せ」

「名探偵?」

訝しむように、眉が寄せられる。


本当に解ってないのだ。
いや、解られても困るのだけど。
それでも、言わずにはいられない。


「返せよ」

頼むから。

「俺、何か名探偵から盗った?」

無闇矢鱈に記憶力のいいヤツが心当たりなどないくせに、心配そうに訊いてくるからムカついた。

「心当たりでもあるのか?」

自分でも嫌になるような小馬鹿にした言い方になった。

「…心当たりはないけど」

言い澱むドロボウに笑ってやる。

「じゃ、ないんだろうよ」

当たり前だ。
あってたまるか。

「でも…希望ならある、かな」

苦笑しながら、ドロボウが迷うように言った。




「何だよ」

どうしよう、なんて困ったような顔をするから苛立つばかり。

「んー。
 名探偵のね、心を奪えてたらいいな、って思ったんだけど」

ダメかな、と訊いてくる。

「…笑えねぇな」

「そりゃ、本気だからね。
 笑われると困るよ」

相変わらず苦笑を浮かべてるくせに、目だけが真剣。
そんなの気づかなければよかったのに。




「なぁ、ドロボウ」

ドロボウ、と言っても、訂正されることなく、続きを待たれる。
真っ直ぐと俺を見てくる目から視線を逸らし、月を見ながら続ける。

「盗ったモノは必ず返すんだろ?
 さっさと、返せよ」

頼むから、返してくれ。
お前に心なんてやれないのに。
やったところで、お前はひとりで戦おうとするのに。
必要とされないのに、盗るだけ盗るってどんな酷さだよ。
他の宝石みたいに返してくれ。
頼むから。



「名探偵。
 俺ね、決めてるんだ。
 盗ったモノは必ず返すって」

知ってる。
だから、返せ、と言ってるんだ。

「でもね、返さないと決めてるモノもあるんだよ」

それも、知ってる。
探しモノの宝石だった場合だろ?
それを手にして、終わらせるために戦いに行くんだろ?

「目的の宝石」

だから、知ってる。

「本当に、それだけだったんだ。
 でも、もうひとつ増やしていいかな?
 名探偵から奪ったモノ、返さなくていい?」

穏やかに、告げられた言葉に視線を戻す。
真剣な目が、そこにあった。



「罪を犯してる自覚はある。
 でもだからと言って止めるワケにはいかないから、
 できるだけこれ以上罪を犯したくないんだけど、返さなくていい?」

返したくない、と告げてくる。
その言葉に心が動かされないワケじゃない。
でもお前は。

「ひとりで戦うんだろ?」

それじゃ、意味がない。
置いてきぼりなんて冗談じゃない。
共に戦えないなんて、俺に対しての侮辱だ。

「ごめんね」

肯定するように、ドロボウが頷く。

「だから、嫌なんだ」

返せよ、ともう一度言った。
力ない情けない声だった。





返せと言ったところで、モノみたいにキレイにもとの状態に戻るはずはない。
それでも、言わずにいれなかった。

こんな苦しい想いなど知らない。
知らないままでよかったのに。


落とした視線の先、ドロボウの白い手袋に包まれた手が見えた。
震えるほどに強く拳を握り締めているから、きっとドロボウも苦しいのだ。

でも、それでも言わずにはいれない。




――返せよ、頼むから。






07.03.23 Back