星が瞬く。
君が、瞬く。
Spark
仰ぎ見た空は、濃い藍色。
星が小さく瞬いている。
とても小さな存在なのに、必死に自己主張するように瞬いている。
まるで、それは――
「…悪足掻き」
呟けば、くいっと袖を引っ張られる。
「何か言った?」
「いや、何でもないよ。
それよりも、早く君の家で温もろう」
そう言って、出会ったばっかの女の細腰を抱き寄せる。
女はクスクス笑い、細い腕を俺の腕にぎゅっと巻きつけてくる。
俺も笑って歩き出そうとした。
なのに、できなかった。
声が聴こえた。
お前の声が聴こえたから。
歩き出そうとしない俺に、女が不思議そうな視線を寄越す。
それに対して、曖昧な笑みで答える。
「ごめん、ちょっと急用思い出した」
「何それ」
笑っていた女の顔に怒りが滲む。
「ごめん、また今度」
そう言って、怒気を孕んだ声を背中で受け止めながら駆け出した。
声が聴こえる。
サスケの声が、聴こえる。
その声は、聴いたことのない旋律を唱える。
近づけば近づくほどに、その声は鮮明に聴こえてくる。
そして、その度にワケの解からない衝動に突き動かされる。
辿り付いたのは、演習所。
的を掲げている木に背をあずけて座りこむサスケがいた。
昼間見たあのスカした態度のガキはそこにはおらず、
膝を抱きしめ、薄ぼんやりと遠くを見る小さな子どもがそこにいた。
不意に唄声が止み、サスケがゆっくりと視線を寄越す。
相変らず、ぼんやりとした目がそこにある。
声を発することができぬまま、サスケに近づく。
目の前に立ち、ただじっと見つめる。
サスケも何も言わず、俺を見つめる。
ぼんやりとした目のまま。
沈黙を破ったのは、遠くで鳴いた鳥の声。
互いに一瞬だけそれに視線を寄越したが、また見つめあった。
「…何をしてるの?」
問えば、ぼんやりとしたまま答えられる。
「何も」
「何も?」
「あぁ」
「…唄ってた?」
「…」
ゆっくりとサスケは瞬きをしてから視線を外す。
「綺麗な唄だね」
本当は哀しい唄、と言いたかったのだけれど、それは言えなかった。
言ってはいけない気がした。
きゅっとサスケの小さな手が膝の上で強く握られる。
「サスケ、風邪ひくよ」
小さな手を取るためにかがみこむ。
目線が下がり、サスケの顔がよく見えた。
あたりはすっかり暗闇だというのに、見えてしまった。
うっすらと泣いた跡が。
「…泣いてた?」
「泣いてない」
サスケは、視線を逸らせたまま唇をぎゅっと噛み締める。
「そう…」
言いながら小さな身体を抱きしめれば、予想に反してサスケは身体を預けてくる。
「綺麗な唄だったね」
もう一度言えば、サスケがこくんと頷いた。
「母さんが唄ってた、子守唄…」
「そう。綺麗な唄だったね」
また小さくこくんと頷いた。
「ねぇ、唄ってよ」
「…」
「サスケ、唄ってよ」
サスケは、縋りつくように俺の服を握り締め唄った。
物哀しい旋律を物哀しくも綺麗な声で。
小さな身体を抱きしめ空を仰げば、小さな星が瞬いている。
先ほど悪足掻きにしか見えなかったそれは今、声にならない悲鳴をあげているように見えた。
星が瞬く。
君が、瞬く――
2004.01.02〜01.04
※Hちゃん一言感想※
→『静かだね。水面みたい。
水の表面の静かさ、っていう感じがする』
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