目を閉じれば、浮かぶ白い手。 自分に伸ばされた、幼い白い手。 それが現実のことなのか、願望なのか解らなくなった。 CALL ME. 雨の音が聴こえる。 時折、サスケがパラパラと本を捲る音が聴こえる。 会話は、もうずいぶんとない。 それでも、苦痛に思う関係でもなかった。 けれど、今日は違った。 雨の雫が張り付いた窓ガラス越しに、サスケを見る。 床に座り込んで、食い入るように専門書を読みふけている。 「サスケ」 呼びかけても、応えはない。 それでも、気にせず続けた。 「もう、帰ってよ」 声は聴こえていたようで、サスケは振り返る。 「アンタが、呼び出したんだろ」 眉間に皺を寄せ、不機嫌な声が返される。 だからだよ、と言ったら、どんな顔をするだろう。 そんな興味が一瞬湧いたけれど、もう話しもしたくなかった。 「うん、でも。 もう帰ってくれない?」 笑みを浮かべながらも、強く言った。 視線が絡む。 強く睨んでくる目。 それを笑みを浮かべながらも、疲れ果てた目で見返した。 暫くそうしていたけれど諦めてくれたのか、サスケは何も言わず出て行った。 力任せにドアが閉じられた音が、無意味に響いた。 けれど、追う気力はない。 そんなものがあれば、こんな想いに捕らわれてなどいないから。 動きたくない。 考えたくない。 けれど窓にもたれたまま、飛び出したサスケを視線で追う。 怒ったままに、雨の中傘もささず飛び出した小さな背中。 そのまま、視界の果てに消えてくれればよかった。 それなのに、どうして立ち止まるのだろう。 どうして、振り返るのだろう。 どうして、視線が再び絡まるのだろう。 見ていたくないのに、目が離せない。 無駄に互いの視力がいいことが、哀しい。 怒っていたはずなのに、見上げてくる目は傷ついていた。 噛み締められた唇が、痛々しい。 そんな目をするから、 そんな態度をするから、解らなくなる。 錯覚する。 見えない手が、救いを求めるように自分に向かって伸ばされていると。 必要とされていると。 けれどそれは錯覚でしかなく、ただの願望でしかないのかもしれない。 サスケは何も言わないし、 手を伸ばしてきたことなど一度もないのだから。 曖昧に笑って誤魔化していたツケが、回ってきたのだろうか。 言葉にしなければ解らないことがある、と今更ながらに感じてる。 自分のしている行為が、解らない。 手が伸ばされていると思って、その手を掴んでどうするつもりだったのか。 その手を掴んだところで、救い出せるはずもないのに。 …その前に、何故その手を掴んだのか。 気づかないふりをするか笑って逃げるか、今までそのどちらかでしか取らなかったのに。 呼んで傍にいさせるのでは、意味がない。 それは、俺が必要としているだけでしかない。 お前が呼んでくれないと、意味がない。 必要としてくれ。 お前が、俺を呼んでくれ。 白いその手を伸ばして、名を呼んで。 錯覚ではない、と教えてくれ。
05.01.27〜05.28 ※Hちゃん一言感想※ →『本気で涙がぼろぼろ出てきた』 ← Back