東方司令部を出る頃には日は傾いていた。
西の空に赤い夕日が滲む。
滲んで異様に大きく見える太陽。

手を伸ばす。
届くわけでもないのに、それでも手を伸ばす。
届いたところで、この手は焼き尽くされてしまうと知っているのに。
それでも、手を伸ばす。
そうさせる太陽は、まるで彼のようだった。







The sun and Ikaros.







「兄さん?」

アルの声が聴こえた。
振り返れば、戸惑ったように立ち竦むアルがいた。

「何?」

「何じゃないよ。手なんか伸ばしてどうしたの?」

「…手」

未だに太陽へと手は伸びている。
その手をぎゅっと握り締めながら降ろす。

「何でもない」

笑って言ったところでアルは信じなかっただろうけれど、
それから追求することもなく、帰ろう、と言った。
沈む太陽に背を向けて歩き出す。




「何か情報入ったの?」

そう問われてはっとする。
…情報、訊くの忘れた。
いや、何か聞いたのかもしれないけれど、途中から何を話したのか覚えていない。
いつもならぼんやりとしながらも、会話を聞きこぼすなどということはないのに。
今日は気づいてしまった感情に、頭を占められてしまった。

何をしている?
前へ進まなければいけないのだろ?
愚かだ、と思ったのではないか。

不甲斐なさに悔しくて、手を強く握り締める。



「兄さん?」

心配そうな声が降ってくる。
その声に答える前に小さく深呼吸をしてから笑顔を作る。

「悪い。訊くの忘れてた。
 大佐、今日も残業だろうからまだいると思うし、訊いてくるからお前先に宿に帰ってろ」

質問の答えになっていないと気づいたけれど、アルもそれには何も突っ込まなかった。
ただ、大丈夫?、と訊いてくるだけ。

「大丈夫だって。
 最近寝てなかったから疲れが溜まったんだよ。
 今日は早く寝るから、宿で待っててくれ。
 あ、飯食って帰るから、先に休んでろ」

押し切るようにその場を後にする。
背中にアルが何か言う声が聴こえたけれど、何を言ったのかよく解らなかった。 



情けない。
悔しい。
距離を確認しただろ?
触れられない距離が互いの距離だと。







04.05.24
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