14歳の差。
一回り以上の差。
それはどんなに俺たちが歳をとっても、変わることはない。
The difference of 14 years old.
「なぁ、アンタのほうが先に死ぬんだよな」
そう呟けば、彼は目を瞬かせた。
「…いきなり、嫌なことを言うね」
「だって、順当に行けばそうだろ?
アンタと俺の差は14。
ジジイになったら、その差は結構デカイよな…」
「気にしているのかい?」
何を今更、と彼が笑う。
けれど、今更だから気にするのだ。
彼を好きになって、彼も奇跡的に俺を好きになってくれて、
今は幸せのまま時を刻んでいる。
でも、だからこそ怖い。
いつか、彼は俺をおいて逝ってしまう。
彼のいなくなった後、どうすればいい?
そんなことを考えれば、深い溜息が漏れ出る。
「君が望むなら、その時は一緒に連れて行ってあげようか?」
笑って彼は言う。
その言葉に思うものは、喜びよりも――
「嘘吐き」
苦々しく呟けば、彼は笑った。
その笑みは、肯定の笑みだった。
嘘吐き。
俺が望んでも、絶対に彼は連れて行ってはくれない。
生きろ、と彼は言うのだろう。
彼のいない生を歩んででも生きろ、と彼は言うのだ。
そしてそれが彼の望むことだと解っているから、きっと俺はその言葉に逆らえない。
だから、天命がくるまで生きなければならない。
彼のいない生を行き続けなければならない。
「嘘吐き」
もう一度呟けば、ごめん、と彼は謝った。
でもそれだけで、訂正はしてくれない。
それが悔しくて、哀しい。
少しくらい俺の気持ちも解れよ…。
「…もし俺のほうが先にその時を迎えたなら、俺はアンタを絶対に連れて行くから。
嫌がって足掻こうが、絶対に連れて行くから」
そう告げれば、彼は笑った。
「そんなこと君がするまでもないよ。
君が先に逝ってしまってひとり残されるくらいなら、君と共に逝くことを選ぶから」
何でもないことのように、彼は笑う。
「…アンタ、残酷だな。
俺にはひとりで生きろと言うくせに」
「私の命など君の命に比べたら軽いものだからね」
そう言って、また彼は笑う。
「それに、君が望んでいるのだからそれでいいじゃないか。
君が望むように、私も同じことを望んでいるのだから」
「でも、アンタが先の場合は違うんだろ?」
そう告げれば、彼は苦笑する。
「…君には生きていて欲しいからね」
「やっぱりアンタは残酷だ」
もう苦く笑う顔など見ていたくなくて俯けば、彼は俺を抱き寄せた。
そしてまた、すまないね、と呟くのだ。
謝罪の言葉など欲しくないのに、
欲しいのは、一緒に連れて行ってくれる、という言葉だけなのに。
どんなに乞うたところで、彼は絶対にその言葉を吐いてはくれないのだろう。
だから、もうその言葉を願うことはやめる。
ただ彼より先に、天命が来ることを乞い願う。
04.07.14
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