外に出せば雨が降っていて、なんてタイミングがいいのかと、笑った。 勝手に流れ落ちる涙は雨に流されても漏れる嗚咽は止まらず、 ぽつんと光る電灯に寄りかかって泣いた。 A prayer of the last. 遊びだなんて、嘘だった。 本気だった。 彼が、自分に本気だということも知っていた。 けれど、もうあんな関係ではいられない。 中央に訪れた時に立ち寄った店で、軍服を着た男たちが彼のことを話しているのを聞いた。 それは聞くに堪えないことばかりで、握った拳が小刻みに震えた。 それでも、気づかず男たちは話を進める。 限界になって何か言ってやろうと席を立ったその時に、男のひとりが言った。 「何か失脚させるようなこと起こさないかな」 「アイツ、そのへんちゃっかりしてるからな」 「そう言えば、あれだけ女との噂が絶えないんだから、そっち方面でなんかないのか?」 「それが最近、なりを潜めているんだとよ。 本気の相手でもできたんじゃねーの」 「畜生、なんかムカツク」 「あー、でも、それ使えねぇ?」 「何がだよ」 「だから、その本気の相手ってのが、あの鋼のガキってのはどうだ」 「はぁ?何言ってるんだよ。ガキと言っても、アイツ男じゃねぇか」 「馬鹿だな。だから、いいんだよ。 ガキに手を出したってだけでも軍法会議ものだというのに、相手は男。 言うことなしじゃねぇか」 「あ、そうか。お前、頭いいな」 「だろ?」 ゲラゲラと笑う声。 勢いを失って、その場に座り込む自分。 最悪、だった。 リスクはあることを知っていた。 いや、リスクしかないと知っていたはずなのに、 それは飽くまで知っているの範囲内のことであって、理解はしていなかったのだ。 自分は、彼にとって何ひとつ利益をもたらさない。 それどころか、害にしかならない。 それを、思い知った。 だから、別れようと…終わりにしようと思った。 だから、これでいいんだよな。 言い聞かせるように、自分に問う。 脳裏に彼の言葉が甦る。 手放す気はない、と彼は言った。 それで、十分だった。 十分じゃないか。 だから、泣くな。 震える手でごしごしと涙を拭えば、目に映るのは掴まれた痕がくっきりとついた手首。 拭ったはずの涙が、溢れ出す。 止まっていた嗚咽も漏れ出す。 これで最後にするから。 泣かないから。 必要以上に会わないから。 だから、どうか、俺ののことを忘れてください。 祈る相手は存在しない神ではなく、いつも彼だった。 けれど、その彼はもういない。 もう弟と自分の手足を取り戻すこと以外は何も祈らないし願わないから、 最後に、彼が自分を忘れてくれるようにと、彼の残した痕に祈るように口付けを落とした。
04.05.27 ← Back