大切な人がいた。 尊敬するお館様。 自分に仕える忍なのに、家族みたいだった佐助。 それから、名前しか覚えていなかったけれど政宗殿。 夜 明 け の シ リ ウ ス 物心が付いた時には、すでにその想いはあった。 記憶と言うにはあまりにも朧げで、 どうして会ったこともない人たちの名前を知っていて、 その人たちを大切だという想いまでもがあるのか不思議だった。 けれど、 成長するごとに少しずつ思い出された。 昼間のふとした瞬間だとか、夜眠った夢の中でだとか。 幼い自分にはそれが普通であり、 何もおかしいとは思わなかった半面、 それが何なのか理解していなかった。 けれど、 五つの時に両親を失い、 養い親として遠縁であるお館様に初めて会った。 その家で、佐助にも会った。 より一層思い出される。 想いも、白昼夢も、夢も、すべて過去のこと。 けれど、お館様は過去を何一つ覚えておられない。 佐助は自分と会うことで、曖昧な記憶を思い出したと言う。 中学に上がり、 元親殿にもお会いしたが、彼もまたお館様と同様に何も覚えておられなかった。 だから、思うのだ。 これは本当に過去、前世の記憶なのであろうかと。 佐助が同情して単に話を合わせてくれただけの、 だたの思い込みの産物でしかないのではないかと。 解らない。 でも、この想いは本物なのだ。 会う以前から、 お館様や佐助に抱いていた想いも、 未だ会ったことのない政宗殿に対する想いも、本物なのだ。 政宗殿の記憶は、 十五を迎えた今では、いろいろと思い出している。 戦場で会った。 敵将だった。 それでも、強く惹かれた。 けれど、時代が悪かった。 政宗殿は一国の王で、 自分が尊敬するお館様と同じく、 また、数多の武将とともに天下人とならんとしていた。 想いが通じ合っていたとて、 うまく行く未来など、何処にもなかった。 ならば記憶を持って生まれ変わった今ならば、と思ったこともあったけれど、 今生で出会えたとしても、政宗殿もまた記憶を持って生まれ変わっているかも解らない。 だから、 会いたいのは、本当。 けれど、 会うのが怖いのも、本当。 想いは揺れ動くばかり。
〜11.12.31 ← Back