如何して。
如何して、目が覚めるんだ。
如何して、隣にアンタはいないんだ。






『君ヲ愛ス』
「ただいま」 いつものように窓から侵入してくるのではなく、珍しくまともにカカシが玄関から入ってきた。 それも、ちゃんとインターホンを鳴らしてから。 「どうしたんだ?」 「『お帰り』の言葉もなく、それ?」 疲れ果てた顔で笑う。 今日は任務ではなく、単に上層部に呼び出されて行っただけなのに。 「疲れてんのか?」 「うーん、まぁね。  それより、入っていい?」 そう言って、俺を押しのけるように入ってきた。 その態度にムカついて、文句を言おうとしたら抱きしめられた。 強く、強く抱きしめられた。 それにも、なんかムカついてまた文句を言おうとしたら、気づいてしまった。 その腕が震えてることに。 「…何か、あったのか?」 カカシは何も言わない。 ただ、俺を抱きしめる力をもっと強くする。 「カカシ?」 「…れた」 「何?」 「…バレた。  上に、俺たちのこと、バレた」 言葉を理解した瞬間、カカシを引き剥がす。 カカシもそれを拒まなかった。 「カ…カシ」 困ったように笑うカカシの目と合った。 震え出す身体。 カカシは再び何も言わず俺を抱きしめる。 今度は引き剥がそうともせず、自分からその腕に縋った。 漸く落ち着きを取り戻し、カカシに訊く。 「何て言われたんだ?」 「『うちはサスケと特別な関係である、という噂は本当か?』」 カカシは棒読みでその言葉を吐いた。 「…何て、答えたんだ?」 微かにカカシが笑う。 「そうですが、それが何か?」 馬鹿だと思った。 何、馬鹿正直に言ってんだよ。 嘘でもいいから、否定すればよかったんだ。 お前はエリートで、里には不可欠な存在なんだから、そうすれば、里だって何も文句は言えない。 嘘だと解っていても、単なる噂だと判断するのに、何自分から処分くらうこと言ってんだよ。 そのくらい、解ってたんだろ? 「何で、馬鹿正直に言ったんだ」 「だって、本当のことだから」 カカシはまた笑った。 お前、本当に馬鹿だよ。 「馬鹿…だな」 呟いた言葉は掠れていた。 視界も涙で滲んだ。 それを見て、またカカシが笑った。 「否定なんて、できないでしょ」 何か言いたいのに、言葉にならなくてしがみついた。 服を握り締め、声を押し殺して泣いた。 けれど、ふと肝心なことに気づく。 「上は?  上は何て言ったんだ!?」 見上げたカカシの顔は苦痛に歪んでいて、自分たちにとって最悪なことを言われたということが解る。 聞きたくないけれど、それでも聞かずにはいられない。 「カカシ!」 カカシは視線を逸らし、呟く。 「サスケから俺が離れること。  サスケは七班のままだけど、  俺は七班の受け持ちを離れ、暗部の長期任務に就くこと」 俺から離れる? それよりも、暗部に戻る? しかも、長期任務? そんなの生存率が最も低い任務じゃないか。 頭が混乱する。 如何して? 如何して、カカシだけが…。 そう思ったら、もうどうしようもなくてカカシに無理強いをした。 俺の我侭だったんだ。 子どもじみた、我侭だったんだ。 「サスケ、本当にいいの?」 無言で頷く。 「アンタは?」 「俺はサスケが幸せなら、それでいいよ」 笑ったその顔は、困ったふうでもなく、どこか、消えてしまいそうな儚い笑みだった。 それが、少しだけ胸に引っかかったけれど、 どうせ今からふたり同じ処に行くのだから、と気にするのはやめた。 「手を、繋いでいい?」 そう言って、カカシが手を伸ばす。 その手を、無言で握り返す。 カカシがまた笑った。 「サスケ、何か話してよ。  声が、聞きたいよ」 「――ごめん」 「違うよ、そんな言葉が聞きたいんじゃないよ」 そっと空いた手で、頭を撫でられる。 以前は子ども扱いされているようで嫌いだったその行為も、 いつからか、カカシがするということ限定で、好きな行為になっていたことを思い出し、笑った。 「サスケ?」 「何でもない。  ――ありがとう」 カカシが笑った。 俺も笑った。 カカシが俺を抱き寄せる。 それから、耳に唇を寄せ、囁く。 「ありがとう、もいいけど、  どうせだったら、最期に『好き』って言ってよ」 甘い声で呟かれた言葉。 けれど、その中に今からふたりで作り出す、否定的な未来が隠れてることに気づいて笑った。 カカシも笑った。 「『好き』でいいのか?  アンタ、『愛してる』のほうがいいんじゃねぇの?」 「…いいんだよ、『好き』で。  『愛してる』は、また今度聞くから…」 一瞬あいた間を少しだけ不審に思ったものの、 見上げたカカシはやっぱり笑っていて、それもどうでもよくなった。 カカシが小さな小瓶を取り出した。 確実に、『否定的な未来』にいける薬。 眠るように、静かに旅立てることができる薬。 それを持って来てたってことは、きっとカカシは俺が言い出すことを解っていたのだろう。 何を思い、アンタはこれを持ってきたのだろうか。 …ごめんな。 本当に、ごめん。 カカシが、一口口に含む。 「愛してるよ、サスケ」 そう言って、その小瓶を渡される。 俺も、それを一口口に含む。 「俺も愛…、好きだよ、カカシ」 カカシからの言葉をそのまま返そうとしたのだけど、 カカシの悲痛に歪んだ顔が見えてしまい、咄嗟に訂正をしたら、カカシは笑った。 切なげに、それでも、愛しげに笑った。 如何して、一瞬カカシがそんな顔をしたのか解らなくて訊こうとしたのだけど、 それより先にカカシが別の小瓶を取り出し、 それを口移しで俺に飲ませたから、訊くことはできなかった。 その液体は急速に眠気を催し、一切の思考を切断させた。 ただ、途切れる意識の中、カカシが何かを言った気がしたけれど、結局、その言葉は解らなかった。 でも、きっとその言葉を聞く必要なんてないのだから、どうでもいいことなのだろう。 だって、ふたりで否定的な未来に行くのだから。 …そう思っていたのに、 如何して、俺は目覚めたんだ。 白衣を着て覗き込んでくる見知らぬ大人たちなんて、どうでもいいんだ。 如何して、隣にアンタがいない? ――如何して、俺ひとりだけがこの世に生きている?
2003.09.16〜09.24 2002.10.11 微妙に修正 BGM:『夜を駆ける』(By スピッツ) またも友人Hちゃんがキリ番踏んでくれました。有難うvv リク内容↓  『如何して?』って言葉。  取りも直さず、相手に対して『狡い』ってゆうニュアンスが込められてるんだけど。 とのことでした。 タイトルが決められずにまたも頼んだところ、決めていただきました。 『君ヲ愛ス』と『君を愛す』で激しく二人で悩んだんだけど、結果『君ヲ愛ス』になりました。 またも、泣いたと言われ、ドッキドキでした(笑) 言い訳(故に白文字) 途中で『里抜け』するのか?と思わせつつも、心中(未遂)を狙いました。 巧くいったかは謎ですが。 カカシはサスケをどういうワケだか今回は生かしたかったから、 解毒剤をサスケにだけ飲ませます。 カカシはサスケに「愛してるはまた今度でいい」って言います。 これって、死んでまた自分のもとに帰ってきたら、その言葉を言ってね、みたいな感じです。 無意識だけど、自分から生かしておいて、残りの人生縛る気ですよ。 今、『愛してる』なんてサスケに言われちゃったら、自分が風化すると思ってるから、 最上級の言葉を言わせないで、残りの人生それを枷に生きて自分のもとに帰ってきてくれと思ってる。 これまた、無意識で。

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