視線の先
カカシが俺に触れる。 まるで、壊れ物を扱うみたいに。 そっと、そっと触れる。 けれど、俺は目を閉じたまま。 目を開けない。 寝たふりを続ける。 カカシはそれに気づかず、なおも俺に触れる。 優しく、静かに触れる。 髪をゆっくりと梳くその手。 頬を触れる、その柔らかさ。 瞼に触れる、少し緊張した指。 どれも、好きだと思う。 でも、応える術を知らない。 カカシの手が、目を覆う。 一層、暗くなる視界。 「決して、見てはくれないね」 諦めたように、自嘲気味に呟かれる言葉。 「この眼、いらないんじゃない?」 僅かに力が込められる。 「俺を見てくれない眼なんて、俺はいらないと思うよ」 指先に力が入り、眼球が強く圧迫される。 ここまで、だな…。 眼を開ける。 瞼を覆っていた手が、静かにのけられる。 「起きたの?」 そこにはいつもと変わらない、胡散臭そうな笑みだけがある。 諦めたような顔も、自嘲気味の顔もない。 「あぁ。  アンタ、何してたんだ?」 「サスケの寝顔見てたんだよ」 にっこりと笑うアンタ。 その様子に不自然さは一切感じられない。 「目を…。  目を、触ってなかったか?」 「触ってたよ。  ほら、こうやって…」 再び視界が暗闇に変わる。 何も、見えない。 「どうして?」 「サスケが、俺を見てくれないから」 「…見てるよ」 眼を覆っていた手を払いのけたら、静かに笑うカカシと目が合った。 「うん、見てくれてるね。  でも、そういう意味じゃないよ…」 「…」 何も言えなくて、目を瞑る。 その眼に、カカシがまた眼を覆うように手を置く。 その暗闇の視界が、さらに暗くなる。 「決して、見てはくれないね」 「…」 見たら、最後。 アンタに捕まってしまうから。 「触れれば、応えてくれるのにね」 「…」 アンタのこと、嫌いなワケじゃないから。 「どうしたら、見てくれる?」 「…」 アンタが、俺を見なくなったら…。 そう思ったら、泣けてきた。 想いは、同じ方向に向かっているというのに、決して交わらない。 交わったその瞬間が、終わりを迎える。 アンタはそのことに気づいてないのか。 それとも、これは単なる俺のくだらない思い込みなのか。 アンタにいっそ捕まってしまったほうが楽だと思う。 でも、それは、決してできない。 決して、できはしないんだ。 だから、アンタが俺を想ってる限り、俺は、アンタを決して見ない。
2003.09.08〜09.12 大変遅くなりましたが、3131を踏んでくださった水鳥トキさまに捧げます。 リク内容は、  『お互いの気持ちがすれ違ってて、愛し合ってるのに通じない想い』 でした。 …申し訳ない。なんか違いますよね。 愛し合ってる、のかさえよく解らない文となってしまいました。 ごめんなさい。 けれど、こんなんでもよかったら、どうぞ水鳥さま貰ってやってくださいまし!

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