100回の好きより1回のキス
愛しい子どもを抱き寄せる。 抗わないのをいいことに、強く強く抱きしめる。 背中に回された手を、嬉しいと思う反面、 それでも決してこちらを見てくれないことに、哀しくなる。 無理矢理顎を掴み、こちらに向かせる。 視線は、逸らされることはない。 自分からは見てはくれないくせに、無理矢理向かせると見てくれる。 一体、何なんだろうな…。 サスケは何も言わない。 ただ、俺を見ている。 「サスケ、俺はお前が好きだよ」 サスケは、何も言わない。 先ほどと同じように俺を、見ている。 「好きだよ」 何度でも、言うよ。 お前のためでなく、自分のために。 限りある生だから、いつ消えてなくなるか解らないこの命だから、 今、この一瞬一瞬を生きるよ。 自分のために。 けれど、 それがお前のためでもあったらいいと思いながら、俺は生きるよ。 顎を掴んだままキスをする。 額に、目に、頬に。 たくさんのキスを君に。 言葉じゃ足りない気持ちを込めて。 それが伝わることを祈って。 サスケは何も言わない。 抗わない。 ただ、その瞳に俺を映し出す。 気持ち、伝わってる? 俺、もう行かなきゃいけなんだよ。 お前を置いて、行かなきゃいけないんだよ。 戻ってこれるか解らない、そんな任務に今から行くんだよ。 ゆっくりと身体を離し、サスケと視線を交わす。 サスケは、何も言わない。 もう、時間だ。 ばいばい、サスケ。 好きだよ。 その想いを込めて、小さな唇にキスを落とした。 『行ってくる』とも『待っててくれ』とも言えなくて、 最後になる言葉は、言葉にならなかったキスだけだった。 サスケは何も言わず、俺を見ていた。 結局、最後までお前の気持ちは聴けないままだったな…。 背を向け、死地に向かうはずが、服をつかまれ邪魔された。 サスケは何も言わずに、そのまま俺の服を引っ張り引き寄せ、キスをした。 額に、瞼に、頬に。 そして、唇に…。 それから、何も言わず背を向け歩き出した。 ゆっくりと、歩き出した。 一度も振り返ることなく、サスケは行ってしまった。 サスケは最後まで、一言も話さなかった。 けれど、最後のキスが俺と同じ想いを抱いていることを教えてくれた気がした。 言葉なんて、必要がないのかもしれない。 言葉は欲しいけれど、それでは足りないこともあるから。 ねえ、サスケ。 俺は満たされてるよ。 言葉なんかで型入れされた気持ちじゃない、 お前の本当の気持ちが聴けた気がして。 でも、やっぱり俺は我侭だから、言葉も欲しいと思ってしまう。 だから、生きて帰ってくるよ。 その時を糧に、生きて帰ってくるよ。
2112を踏んでくださった早藤なおきさまに捧げます。 リク内容は以下でした↓ 『好き』という言葉が欲しいカカシと、傍にさえいればいいと思っているサスケ、でお願いします!! カカシは、言葉も心も躯も欲しがっているのに、サスケは、言葉では何とでも言えるから、 傍にいることで『好き』をあらわしているんです。 でも、カカシはそれだけじゃあ、とうてい満足できません。 サスケの言いたいことは分かるんだけど、やっぱり言葉ではっきりと言って欲しいんですよね。 だから、サスケになんとしてでも『好き』と言わせてみせるぞ! と意気込んじゃったりしたら、カカシ最高! です(笑)。 …すみません。 本当にすみません。 一応なんとか(これでも)カカシは頑張ってはいるのですが、 サスケの心情を一切書いてない上、サスケ一言も発してません。 あぁ、本当に申し訳ないです(涙) こんなのでもよろしかったら、受け取ってくださいませ。 追記2003.08.25 タイトルが思いつかず、早藤さまに無理を言ってお願いしたところ、 『100回の好きより1回のキス』というタイトルをいただきました。 ウチのサイトでは珍しく、可愛い感じです! 本当に、有難うございました。
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